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【イベントレポート】文藝春秋100周年シリーズカンファレンス 物流の「2024年問題」~人材確保と人材育成、働き方改革~

2024年4月からドライバーにも年960時間の時間外労働上限規制が適用されることからドライバー不足が深刻化して、これまでの輸配送能力を維持できなくなることが懸念されている。3月24日(木)に開催された「文藝春秋100周年シリーズカンファレンス 物流の「2024年問題」~人材確保と人材育成、働き方改革~」では、物流、働き方の専門家や、物流改革を推進する企業役員らが「2024年問題」に向けた対策を考察した。

特別講演①

~持続可能な加工食品物流に向けて~
簡易な検品レス・納品リードタイム延長に向けた取り組みなど

前田様①

キユーピー株式会社
執行役員 ロジスティクス本部長
前田 賢司氏

人手不足が課題の物流の中でも、加工食品物流を取り巻く状況は特に厳しい。マヨネーズをはじめ多くの加工食品を手掛ける食品大手、キユーピーの前田賢司氏は、20年代後半のドライバー数が現状の5~6割に減るとする予測を示して「流通の維持には徹底した効率化が必要になる。業界関係者は行政当局と連携して持続可能な物流を構築することが必要」と訴えた。

加工食品物流は、納品までのリードタイムの短さ、納品時の長い待機時間、荷役などの付帯作業、検品頻度の多さから、ドライバーに敬遠される傾向がある。そこにコロナ禍でのネット通販の輸送ニーズ増大や、24年4月からドライバーにも適用される労働時間の上限規制が追い打ちをかける。

同社は、日用品メーカーなど異業種との共同トラック輸送や、船舶・鉄道輸送を組み合わせたモーダルシフトを推進してドライバーの稼働時間を削減。リードタイム延長、事前出荷情報を使った簡易な検品レス化にも取り組む。

2011年の東日本大震災後、配送を受注の翌日から翌々日にして供給責任を果たした経験をする中で「鮮度・リードタイムをめぐる過度な競争が流通を圧迫し、高コストにしているのではないか」と感じた。「リードタイムを伸ばし、物量を事前に確定すれば、仕事を根本的に変えられる」と話す。

前田様②

卸売会社らとの簡易な検品レスの実証実験では、事前出荷情報(ASN)を作成するリードタイムを確保し、車単位でASNを作成、納品時に検品レスを優先受け付けしてもらって待機時間を短縮、ASNを受け取った荷受け側の効率的な仕分け・格納――といった工夫で大幅な効率化ができると確認。リードタイム延長の実証実験では、9割以上の物流を翌日から翌々日配送に延ばせば、車両台数やドライバー削減に大きな効果があることも分かった。

「今後は、小売業にも理解と協力を得ることが重要になる。DXを進めて、業界標準を確立し、持続可能な物流を推進したい」と語った。

テーマ講演①

物流業界が抜け出せない“ヒト”への依存
~「属人化した現場業務」を解消するための最善策とは?~


諸根②

株式会社スタディスト
営業部インサイドセールスグループマネージャー
諸根 直史氏

物流現場は、特定の人にしかやり方が分からない「属人化」により作業が非効率になりやすい。マニュアル作成共有のクラウドサービス「Teachme Biz(ティーチミービズ)」を提供するスタディストの諸根直史氏は、マニュアル整備による業務標準化で属人化を防ぐことで、物流業務の生産性を向上できると訴えた。

業務が属人化すると、教育の負担も特定の人に集中する。業務が標準化されておらず、人によってやり方が異なると、教えられる側も困惑して早期離職につながりかねない。人材確保面からも業務の標準化は重要だ。

諸根③

標準化にはマニュアルが有効だが、作成に時間がかかる上、せっかく作っても文字ばかりの説明では読んでもらえず、やがて更新もされなくなる。Teachme Bizは、画像・動画にテキストを組み合わせた分かりやすいマニュアルを簡単に作成・更新でき、タブレット端末などからいつでも必要な箇所を読み出せるようになるのでマニュアルの活用、業務標準化が進む。

Teachme Bizを使って業務標準化に取り組んだ物流企業の事例を紹介した諸根氏は「自己流の作業によるミスを減らし、教育研修期間の削減、人材の定着率向上・即戦力化などに効果を上げている」と語った。

テーマ講演②

「2022年から始めないと間に合わない?」
2024年問題に向けたデータ活用、ドライバーの労務問題発見プロセス

フレクト様①

株式会社フレクト
執行役員Cariot事業部長
大槻 真嗣氏

2024年度から年960時間の時間外労働上限規制がドライバーに適用されるのに先駆け、23年度には中小企業で月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が大企業と同じ50%に引き上げられる。フレクトの大槻真嗣氏は「22年から、労働実態の把握、課題の特定、解決策の検討と実施、効果測定の改善サイクルを回して、23年に月60時間以上の時間外労働をなくしていけば、2024年問題は解決できる」と訴えた。

同社は、企業が使う車両に関する様々な情報を蓄積し、活用するクラウド型動態管理システム「Cariot(キャリオット)」を提供。車両の位置情報、走行時間、拠点の滞在時間など自動で取得したデータに加えて、ドライバーに休憩や荷役業務の時間をスマートフォンアプリから入力してもらうことで、改善サイクルの取っかかりとなる「勤務実態の見える化」を実現する。

フレクト様②

長時間労働の主因として、非効率なアナログ業務、未熟なドライバーのノウハウ不足、配送計画のムリ・ムダ・ムラ、待機時間や隠れた付帯業務の4点を挙げた大槻氏は、店着確認をCariotで自動把握することで業務報告の手間を減らし、労働時間削減を実現した例を紹介した。

特別講演②

「サステナブルな物流の実現へ向けたNXグループのアプローチ」

古江様①

日本通運株式会社
取締役常務執行役員 グローバル営業戦略本部長
古江 忠博氏

2024年度問題をはじめ物流のドライバー不足は深刻化している。ネット通販の小口貨物や、リードタイムの短い貨物の増加もあってトラック積載率も低下を続け40%を割り込んだ。一方、脱炭素という新たな課題も浮上している。今年からホールディングス体制に移行してNXグループとなった日本通運の古江忠博氏は「サステナブルな物流の実現」を訴えた。

輸送モード別CO2排出量は、物流業者が運行する営業用トラックと比較すると船舶は5分の1、鉄道は13分の1で、自動車から鉄道、船舶へのモーダルシフトが持続可能な物流の第一歩になる。また、荷主自らが輸送する自家用トラックの排出量は営業用の5.2倍に達しており、頻度削減や共同輸送、物流業者への委託といった見直しも有効だ。同社は、過去の出荷・請求書データを使い、モーダルシフトによるCO2削減効果を社外に開示できるレポート形式で見える化するサービスも提供している。

具体的な取り組みでは、温度管理が必要な商品を輸送する冷蔵トラックの確保が難しくなった製菓会社が、リース契約で安定確保した冷凍の鉄道コンテナ利用に切り換えた例。金属加工会社が港の近くの拠点に出荷を集約し、トラック輸送を最短化して内航船輸送へのモーダルシフトの効果を最大化した例。名古屋と滋賀からそれぞれ北陸に出荷していたビールメーカー同士が、空きのある関西圏発の鉄道コンテナを利用して共同輸送するため、そろって出荷地を関西圏に変更した例。別々の荷主の重量品と軽量品をマッチングし、形状の異なるパレットを混載可能とすることで実現した共同輸送――の事例を紹介した。

古江様②

古江氏は「2024年問題、脱炭素への対応が求められる今こそが、サステナブルな物流に取り組む絶好のタイミングだ。自社の枠を越えて外に目を向けることで、同業の競合相手、異業種と協力する可能性が広がる。我々、物流事業者も仲介・マッチング役となって推進したい」と語った。

基調講演

先を読んだロジスティクス改革~物流供給制約への備え

矢野様①

流通経済大学
流通情報学部部長・教授
矢野 裕児氏

深刻化するドライバー不足により、30年の営業用貨物自動車の供給量は15年比で3割減と推計されている。これは、ドライバーになりたい人(求職者)の3分の2が50代以上という年齢構成データから見て、ほぼ間違いなく訪れる未来の姿だ。流通経済大学の矢野裕児氏は「物流の供給制約への対応は今から考えておく必要がある」と訴えた。

物流改革は長らく叫ばれてきたが、これまで進んでこなかった。物流の課題は、物流業者だけにとどまらないサプライチェーン全体の問題だからだ。情報共有不足、標準化の遅れ、非効率な商慣行がスムーズな物流を妨げていて「負荷を押しつけられてきた物流事業者だけでは解決できない」という。

改革は、まず情報の電子化とともに、伝票や受け渡しデータ、外装やパレットといったソフト・ハード両面の標準化推進が前提だ。現状をデータで定量的に分析し、問題点を把握できるようにすることで、部門・企業間連携も期待でき、物流を定型化してコストを抑えることにつながる。

その上で、改革の方向性として「先を読んだロジスティクス」を提案する。多くの物流現場は、事前の入出荷情報も得られないまま「その場対応」になっている。これを改め、入出荷、在庫、輸送、販売、需要予測などの情報を共有・見える化して計画的に動けるようにする。さらに、需要(荷主)側も必要な輸送サービス水準を見極め、リードタイムやロットなどでムダにつながる部分を見直し、工夫する。先を読めるようになれば、サプライチェーン全体が計画的になり、需要変動も平準化されるはずだ。

矢野様②

「個々の荷主のニーズにカスタマイズして対応してきた今の物流は非効率で、もはや限界」とした矢野氏は「物流事業者が主導し、データを示して理解を得ながら標準化、平準化、物流条件変更を進めるべきだ。改革が進むことで物流産業をフロンティア産業にすることもできる」と語った。

テーマ講演③

「2024年問題の切り札 変わる東北物流マーケットのいま」

プロロジス様

プロロジス
開発部ディレクター
中山 博貴氏

物流不動産世界最大手、プロロジスの中山博貴氏は「今が熱い」という東北地方の物流の現況と、提供施設について説明した。

同社は、仙台エリアを中心に東北地方の物流拠点を開発してきたが、2024年問題によるドライバーの労働時間制限で、配送エリアが片道3時間圈に制約されると、東北北部の青森、岩手、秋田県などでは、仙台からカバーできないエリアが生じる。一方、東北地方は全線550㌔以上に及ぶ復興道路が開通して海岸堤防も整備され、企業の生産拠点進出も盛んになっている。

プロロジス②

そこで、東北地方にマルチテナント型2施設を計画。仙台空港近くの「プロロジスパーク岩沼」(宮城県岩沼市)は延べ床面積5万1000㎡。盛岡エリアから東北北部をカバーする「プロロジスパーク盛岡」(岩手県矢巾町)は総面積約9万9000㎡。23年12月竣工予定だ。さらに、仙台市泉区に新たな施設計画も進んでいる。

「東北の物流需要は高く、問い合わせも多い」と手応えを語った中山氏は、同社の物流業務周辺サービスにも言及。人材採用支援「タイミー」や、月額制で気軽に質問できるコンサルサービス「クイック物流相談」を紹介した。


特別講演③

医薬品ロジスティクスにおけるDXの取り組み
~社会インフラ企業としてのアルフレッサの使命

福神様①

アルフレッサ株式会社
代表取締役社長
福神 雄介氏

医薬品ロジスティクスは、2024年問題などによるドライバー不足に加え、医療の変化・進化に伴う、新たな医薬品輸送ニーズへの対応も迫られている。「患者の生命に関わる医薬品の流通は止めることが許されないという使命がある」と語った医薬品卸大手アルフレッサの福神雄介氏は、輸配送の効率化を進めながら、新たなニーズに対応するための医薬品流通におけるDXの取り組みを紹介した。

新たな課題の1つは医薬品の宅配だ。コロナ禍で緩和されたオンライン診療・服薬指導が普及すれば、病院で処方箋、薬局で処方薬を受け取る現在の流れは変わり、薬局から患者宅への配送が求められる。同社は宅配事業者と共同で薬のデリバリーサービスの開発を進めている。

また、業務効率化を図り、熟練度が高くないスタッフでも配送先の病院、薬局に確実に届けることができるナビゲーションシステム、売上データなどから業務量や必要な車両台数などをAIが予測するシステムを整備。「パートタイムの高齢者や女性を含めて、経験がなくても幅広く参画できる業務にする。効率化で捻出したリソースは新たなニーズに充てる」と語る。

個別化医療への対応はもう1つの課題だ。患者の体質や病気のタイプに合わせて治療する個別化が進んだことで、治療薬は少量多品種化、高額化している。同社は、病院と治療計画情報を共有することで、必要な薬をタイムリーに届け、病院の在庫管理負担を減らす「医療版かんばん方式」の仕組みを開発。「競合の卸会社にも開放し、業界全体で病院の業務改革を支援する」。

福神様②

さらに、新型コロナウイルスワクチンをはじめとする核酸医薬品や、タンパク質を使うバイオ医薬品など医療高度化に伴う新しいタイプの医薬品の登場で、厳格な温度管理下での輸配送ニーズも増す。「医療の進化に遅れないように物流サービス向上を図っていきたい」と語った。

テーマ講演④

ロボットによる物流DX

ラピュタ①

ラピュタロボティクス
事業開発マネージャー
小堀 貴之氏

物流倉庫の人手不足は20年以上前から深刻な状況が続く。解決にはロボット活用が期待されるが、実際の現場への適応には柔軟性を欠くため、導入は一部にとどまっていた。クラウド接続されたロボットの制御・管理テクノロジーを搭載したプラットフォームや、ピッキング業務を補助する自律搬送ロボット(PA-AMR)を提供するラピュタロボティクスの小堀貴之氏は、「より柔軟な作業、導入が可能になっている」と同社のロボット技術を紹介した。

同社AMRは、ラックの位置などの庫内レイアウトを変えずに導入でき、エリア限定で始めるなどの段階的導入も可能だ。作業優先順位はロボットが自動で決められるが、緊急出荷時には手動操作できる。紙の帳票にも対応し、既存システムとの連携も容易だ。繁忙期にはレンタルでAMRを追加でき、繁閑の波動に対応できる――と導入・運用の柔軟性の高さを強調した。


「1台ですべての作業をこなせるロボットはないので、人とロボットの棲み分け、複数ロボットの使い分けが必要」とした小堀氏は、複数ロボットを全体最適でコーディネートする「群制御AI」や、周囲を認識する「知覚」技術などを備えたプラットフォームを持つ同社の強みをアピールした。

テーマ講演⑤

会社と従業員をつなぐ人材マネジメントとは

SmartHR様①

株式会社SmartHR
プロダクトマーケティングマネージャー
髙松 泰嗣氏

人材獲得が厳しくなる中、人材をリテンションし、エンゲージメントを高め、会社の戦略を達成する手段として「人材マネジメント」への関心が高まっている。人材マネジメントは、人事評価を中心に報酬、等級、人材開発などの仕組みで人材活用を推進する手法だ。SmartHRの髙松泰嗣氏は「ITツールで人事の仕組みを効率的に回し、各種人材データを収集、蓄積、分析できるようにすることが人材マネジメントのカギ」と語った。

SmartHRは、入社手続きや年末調整など労務関連業務の効率化を起点に人材データを収集、一元管理して分析、可視化できる。昨年からは、人材マネジメントの要となる人事評価機能の提供も開始した。各従業員の目標や行動結果を集約するなどの煩雑な業務もシステム上で完結できる。評価プロセスが可視化されるので、評価に対する従業員の納得も得やすい。また従業員エンゲージメントを測定するサーベイ機能もあり、人事施策の効果や、組織課題の把握にも有効に使うことができる。

SmartHR様②

 導入企業の事例を紹介した髙松氏は「今後、人事評価以外にも人材マネジメントに必要となるデータの蓄積機能を強化していく」と語った。

特別講演④

2024年問題へのチャレンジ~働き方改革「最難関業種」の一つ運輸業界の将来~

小室さん①

株式会社ワーク・ライフバランス
代表取締役社長
小室 淑恵氏

1000社以上で働き方のコンサルティングを手掛てきたワーク・ライフバランスの小室淑恵氏は、人口構造が高齢化した「人口オーナス期」は、若い人が多い「人口ボーナス期」とは異なる働き方が求められると訴えた。

国際比較では、今の日本は長時間労働する人が多いのに1人当たり付加価値額は低迷する。理由は人口構造にある。ボーナス期の高度成長時代の日本は、豊富な労働力で製品を早く大量に生産して大成功した。そこでは、女性が家事労働を担い、男性が長時間働き、会社の指示に従順で均質な人材をそろえることが有効だった。しかし、労働力不足のオーナス期は、男女ともにフル活用し、賃金は高いので短時間集中で働く必要がある。集中力を維持できるのは起床から13時間程度で、その後は「酒気帯び」レベルに作業能力が低下する。睡眠時間が短い日々でストレスは積み上がる。終業から次の始業までの勤務間インターバルは、ドライバーで11時間以上が努力義務となり、従業員の睡眠が経営戦略として注目されるのにはこうした理由がある。

企業の生き残りに必要なイノベーションは、多様な人材によるフラットな議論から生まれる。なるべく異なる条件の人をそろえ、自由な発言を担保する心理的安全性も重要だ。24時間働ける人だけを重用していては多様性は成り立たない。親の介護のための時短勤務が、育児のためを上回りつつある現状では「時間制約なくキャリアを全うできるのは奇跡に近い。働き方に制約のある人も意思決定層に残れるようにすべきだ」と強調した。

小室さん②

最後に、朝に業務予定を共有して連携を密にし、夜には予定通りにいかなかった理由の振り返りを共有する「朝夜メール」や、現状の仕事の課題を抽出、解決策を検討する「カエル会議」による、同社の働き方改革コンサルティングの事例を紹介した小室氏は「オーナス期の働き方に早く移行して、勝てる組織、充実した人生を実現してください」と呼びかけた。

写真:末永 裕樹

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