100年後まで読み継ぎたい100冊 綿矢りさ「唇が耳のすぐ側」
見出し画像

100年後まで読み継ぎたい100冊 綿矢りさ「唇が耳のすぐ側」

文藝春秋digital
文・綿矢りさ(作家)

唇が耳のすぐそば

本のテーマより面白さより、ボソボソとした独特の語り口が身体に染みつき忘れられないことはあり、『万延元年のフットボール』『老妓抄』『人間失格』はそれに該当する。どれも日本文学史に残る稀代の名作であるのは間違いないけれど、どこが素晴らしいか改めて考え直してみると、耳のすぐ真横でほとんど呪文のように呟き続ける低い声音の語り口だ。『万延元年のフットボール』の繊細で緻密な細い根のように世界がじわじわ広がってく語り口、『老妓抄』の小気味良い、「こんなことがあったんだが、まあそれだけだ」と言った風なぶっきらぼう且つ味わいのある語り口。ほぼ洗脳なほどの分かりやすさで救いようのない厭世を告白する『人間失格』の大庭葉蔵。これらの作品の語り手たちはほとんど読者を意識してないのに、自分の中身をさらけ出して語ることで人間の本質を突くから、読んでいる方はまるで言伝を受け取ったように、いつまでも忘れない。

この続きをみるには

この続き: 331文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、一流作家の連載小説、心揺さぶるノンフィクション……月額900円でビジネスにも役立つ幅広い「教養」が身につきます。

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。