文藝春秋digital
角田光代さんの「今月の必読書」…『ミス・サンシャイン』吉田修一
見出し画像

角田光代さんの「今月の必読書」…『ミス・サンシャイン』吉田修一

文藝春秋digital

大学院生が80代の大女優に恋をした

長崎出身の大学院生、岡田一心は、ゼミの教授の紹介で、昭和の大女優の家の片づけアルバイトとして雇われる。それをきっかけに一心は、80代になり、とうに引退している和楽京子、本名石田鈴さんの出演作を見返していく。

デビュー当時の和楽京子は「肉体派」「アプレ女優」と呼ばれ、その後アカデミー賞にノミネートされるほどの大女優となる。興味深いのは、和楽京子出演作を振り返るということは、戦後の映画史、そして戦後の社会の空気を振り返ることでもある、という点だ。

デビュー作である『梅とおんな』をはじめ、カンヌ国際映画祭での受賞作、ハリウッド出演作と、小説内で描かれる映画はすべて架空なのだが、途中まで私は実在映画だと思っていた。なぜ架空だと気づかなかったのか。もちろん書かれているあらすじやレビューに現実味があるからだが、何よりも、敗戦後の社会と、社会が求めた娯楽の関係に現実味があるからではないかとも思う。進駐軍を相手に、その豊満な肉体でしたたかに生きる女の姿に敗戦直後の人々は鼓舞され、海外の映画祭で欧米の作品に負けず劣らず評価されたことで、自分たちも肯定されたように感じ、ハリウッドでの活躍に溜飲を下げ、帰国後の芸者三部作で、高度成長期とともに消えつつある日本の美を再認識し、そして映画は斜陽の時期を迎える。この小説は、時代と映画の関係、ひいては映画とはなんなのかを、和楽京子の姿を借りて描いてもいる。

この続きをみるには

この続き: 483文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、一流作家の連載小説、心揺さぶるノンフィクション……月額900円でビジネスにも役立つ幅広い「教養」が身につきます。

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。