
【64-WITHコロナの時代】パンデミックとの戦いは情報戦 AIを活用して効率的に勝利せよ|マックス・テグマーク
文・マックス・テグマーク(マサチューセッツ工科大学教授)
感染拡大を検知するAI
新型コロナウイルスによるパンデミックとの戦いは、つまるところ情報戦です。なぜなら、いつ、どこで、誰が感染したのか、正確な情報を瞬時に把握できれば、あとは感染者と濃厚接触者を隔離して適切な処置を取ればいいからです。
中国はすでに「健康コード」と呼ばれるQRコードを利用したアプリで、国民の移動状況を把握して、感染者との接触歴を確認できるようにしています。中国では飛行機や高速鉄道のチケットを購入するのに身分証明書が必要なので、政府は座席位置に至るまで国民の個人情報を把握できるのです。
このような個人情報を国家が管理するような対策は、プライバシー意識の高い西側諸国では難しいかもしれません。
しかし、AIを上手に使えば、中国のような監視をしなくても、効率的なパンデミック対策を講じることができます。
たとえば、ハーバード・メディカル・スクールを含めた国際的なチームが、ある試みを始めています。ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアへの投稿、グーグル検索、ニュース、行政からの公式発表などから膨大なデータを収集し、AIのアルゴリズムを使って、どこで感染が拡大しているのか、微妙な兆候を検知しようというのです。
たとえば、「発熱が続いている」「PCR検査で陽性反応が出た」というツイートや、医師がブログなどに書き込んでいる内容など、関係しそうなデータを集めて分析すれば、どこでどのように感染が拡大しているかがわかるのです。その情報をもとに、これから感染が拡大しそうな地域を予測し、どこに医療リソースや人材を配分すればいいのか、事前に適切な対策を取ることもできます。
また、イギリスのサウサンプトン大学では中国の百度(バイドウ)から提供されたスマホのデータを分析して、武漢から新型コロナウイルスがどのように世界へ拡大していったのか、モデル化に成功しました。これが示すように、政府から発表される公式データよりも、AIでビッグデータを分析するほうが、より広範囲の拡大プロセスがわかります。
つまり、我々はAIによるビッグデータ分析を使えば、大量の干し草の中から「新型コロナ」という1本の針を瞬時に見つけ出すことができるのです。
感染拡大の予測や分析だけでなく、AIはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の治療薬開発にも力を発揮してくれます。通常、新薬の開発は莫大なコストと膨大な時間を必要としますが、ウイルスは待ってはくれません。
そこで重要になるのが、既存薬から効き目のあるものを探し出すことです。
新型コロナが拡大した当初、抗インフルエンザ薬のアビガン、エボラ出血熱治療薬のレムデシビル、全身性エリテマトーデス治療薬のヒドロキシクロロキンなど、いろいろな薬が試されましたが、どれも決定打にはなりませんでした。