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「受験改革で英語力はアップするか」時代遅れの受験英語が生徒のやる気を失わせてきた

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは「受験改革で英語力はアップするか」です。
★対論を読む

文・安河内哲也(東進ハイスクール英語講師)

 今、大学受験の英語が大きく変わろうとしている。その細かな問題点はよくメディアで論じられているが、残念なことに、なぜこのような大きな改革を国が行っているのか、その背景や理由はあまり論じられていない。

 改革のキーワードとでもいうべき「英語4技能試験」は今や流行語のようになっている。「読む」「聞く」「書く」「話す」という、言葉を使うための基本要素をバランス良く測定することを目指して開発されたのが、この英語4技能試験である。しかし、そもそもなぜ、4技能試験を導入する必要があるのか、今のままではなぜダメなのかを理解した上で議論を進めなければならない。制度の欠点を指摘し修正していくことも重要だが、もっと大きな視点から考えることも必要だ。

 まずは、世界の英語のテストが、これまでどのように変わってきたのかを振り返ってみたい。実は前世紀後半に、日本でも世界でもスタンダードとされていたTOEFLという試験は、現在のセンター試験の英語問題と同様の、知識問題を含む2技能の不均等な試験だった。

 しかしながら、この試験を目的として勉強に励み、基準を達成した留学生たちが英語を話せず、授業が成立しないという問題が指摘されるようになった。やはりマークシートだけでは英語力全般を評価することは難しいということになり、その後TOEFLは、エッセイ・ライティングを含む3技能試験となり、その後、スピーキングを加えて現在の4技能均等・融合型の試験となった。

 また、現在ではもう1つの英語テストのスタンダードとされるIELTSも4技能均等型の試験である。世界では、もはや2技能や1技能の試験は、とうの昔に時代遅れとなっている。

 一方、我が国では、大学入試の英語の問題は数十年前とあまり様変わりしていない。各大学のパンフレットにはグローバルという文言が躍っているものの、その入試問題はとてもグローバルと呼べないものが多い。例えば、受験する学生のレベルとはかけ離れた難しい原書の抜粋に下線を引き、「和訳せよ」「日本語で説明せよ」と求める問題、実際にはめったにお目にかかることのない珍表現を選択問題にしたものなどである。このような問題に向かって偏った英語を勉強させることのどこがグローバルなのか全く理解できない。

 多くの進学校では、学校のカリキュラムもこの大学受験に向けて構築されることが多い。高校3年生になると、教科書の代わりに大学入試の問題を使って授業をしている学校もあるくらいだ。予備校もしかりである。授業をのぞいてみると、とても高校生のレベルに合っているとは思えない入試の過去問を講師がひたすら日本語で解説していたりする。生徒が英語を使って言語活動をしている場面を見ることはほとんどない。学校の副教材を作成している出版社も、大学入試の問題を使い、様々な教材を作成している。

 そもそも、国の指導方針の基本となる学習指導要領の中では、「4技能を統合し、言語活動を通して指導する」ことが求められている。外国語を学ぶ上では、至極当たり前のことであるが、大学受験の問題が読解や文法に偏っていることの言い訳なのか、「高校生までは読解をしっかりやって大学に入ってからスピーキング」という摩訶不思議な論理が、変われない大人の事情でまかり通っている。そのような理屈の下で英語が嫌いになっていく人は多いと思う。

「指導と評価の一体化」という言葉がある。指導と評価は表裏一体の関係にあり、適切な評価がされるからこそ、適切な指導ができるということである。例えば、授業の中で英語を聞いたり話したりする活動をやって、それらの力を高めても、それが評価されなければ指導者も学習者もやる気を喪失してしまい、評価される部分に偏った勉強に向かってしまうだろう。現在は偏ったテストが生徒たちのモチベーションの継続を邪魔している。評価を4技能のバランスのとれたものに改善し、国の指導方針と入学者選抜の一体化を達成すべきであろう。

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