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【29-国際】【朝鮮半島の風向きは変わるか】「日本はいいこともした」植民地近代化論は韓国社会に浸透するか|黒田勝弘

文・黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)

国交正常化交渉で大いにモメた請求権問題

日韓関係を揺るがせている徴用工問題というのは、日本統治時代に戦時動員された朝鮮半島出身労働者に対する補償問題だが、これは1965年の日韓国交正常化の際のいわゆる「請求権協定」で本来は解決済みの話である。それを韓国の裁判所が否定し、今になって日本の関連企業に補償しろと言い出したことからおかしくなった。

「請求権」というのは、過去の統治時代にかかわるお互いの資産や財産などについて相手側に補償を求める権利のことで、それには戦時労働者の未払い賃金などの補償も含まれていた。請求権問題は国交正常化交渉で大いにモメたが、相手への要求となるその対象や額などをめぐって話が進まないため、最後は日本側が提供する「経済協力資金」を韓国側が「請求権資金」として受け取ることでケリがついた。

協定の正式名称が「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」となっているのはそのせいである。経済建設を急いでいた韓国側の事情を背景にした政治的解決だった。この時の資金は韓国政府がまとめて受け取ったため、いわゆる個人補償は別途、韓国政府が国内的に処理することになった。事実、韓国政府は朴正熙政権の1970年代と盧武鉉政権の2000年代に個人補償を実施している。

請求権交渉では、日本統治時代について支配にともなう「収奪論」が強い韓国側は当然、膨大な額を要求した。しかしこれに対し日本側にも終戦時、朝鮮半島からの撤収に際し残してきた膨大な資産、財産のことがあり、韓国側の一方的な請求権要求には承服できなかった。

日本が残した数千億ドルの資産

日本側は最終的には自らの請求権を放棄するかたちで「経済協力資金」方式によって問題を解決したのだが、この背景には朝鮮半島に残した日本資産に関して米国(連合国)から強いられたある約束(?)があった。1952年、敗戦後の米国による日本占領が終わる際の対日講和条約上の解釈で「請求権は主張できない」とされていたからだ。

もっとも韓国は対日戦勝国ではなかったため、この講和条約の当事者ではなかったが。

結局、日本は朝鮮半島に残してきた膨大な日本の資産については請求権を放棄したことになるが、その資産がその後、韓国でどうなったかについては、ほとんど知られていない。そして徴用工補償問題が表面化するなか、朝鮮半島に残された日本資産を考えれば、今さら日本への要求、それも日本企業の在韓資産に対する差し押さえなどとんでもないといった感情が日本側に生まれてもおかしくない。

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