見出し画像

西川美和 ハコウマに乗って18 はじめてのるふね

文藝春秋digital

はじめてのるふね

私は、学生時代に学級委員になったり生徒会に入ったことがない。何となく自分は、体制を変えるために権力者と交渉をしたり、理想を掲げて大勢を啓蒙する柄じゃない、と感じていた。曲がったことを正すより、抜け道を探す方につい向いてしまう。スカート丈について学校側と交渉するのではなく、放課後にワンタッチで短くできる制服改造に没頭し、絶対に先生と出くわさない路地のお好み焼き屋を見つけてたむろしていた。

自らは全くスカート丈などいじらない生徒会長は、私たちを咎めもせず、一方で厳しい校則の改正を学校に求めたが、「校訓に納得した上で入ってきたわけでしょう。受け入れられないならやめてもらって結構」とベテラン教諭は言った。

ムカつく教師だぜ、と思ったが、私立校だったし、一理あるとも思った。上等だ、いざとなったらやめてやる、とすぐに尻をまくろうとする私と、「そうは仰いますが」と相手をつかまえ、今いる足場を居心地の良い場所に変えようと食い下がる生徒会長とでは、望む自由は同じでも、何かが本質的に異なる気がしていた。

映画を作る仕事についてからも、私の気質は変化しなかった。予算が少ないなら少ないなりにやる。寝る時間もないスケジュールを組まれればその中で撮り切り、場所の撮影許可が出なければ脚本を書き変える。ミニシアターが廃れ、封切り直後の動員数でしか映画を評価してくれないシネコン時代に移り変われば、それに対応した宣伝もする。数限りない妥協もしてきたが、それを「突破力」と捉え、密かに自負する空気もある。けれどそんな貧乏自慢は海外の映画祭などに行くと「なぜ作り手のくせにそんなことを許すのか?」と不思議がられる。世界と比べれば自分たちは貧しく、遅れていると痛感しながらも、自分がやれることは、ある材料を工夫して、最大限のものを作るだけのことだと思っていた。

この続きをみるには

この続き: 1,354文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、一流作家の連載小説、心揺さぶるノンフィクション……月額900円でビジネスにも役立つ幅広い「教養」が身につきます。

文藝春秋digital

¥900 / 月

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。