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トランプ再選はあるのか?

文・金成隆一(朝日新聞記者)

 トランプ再選の可能性はある。ただし少なくとも、経済の好調が投票日まで続き、トランプの相手(民主党候補)が地方で不人気な左派になった場合という条件がつく。

 2016年大統領選でトランプに投票した人を、本稿では①迷うことなく1票を入れた積極派、②迷った挙句に「民主党ヒラリー・クリントンよりマシだから」などと支持した消極派に2分類したい。

ラストベルトの熱狂は?

 トランプ政権の支持率はおおむね35〜45%で推移してきた。この岩盤を支えてきたのが①である。広大な米国について、私が取材に基づいて語れるのはラストベルト(錆びついた工業地帯)とディープサウス(深南部)になる。

 大都市ニューヨークから車で西へ。アパラチア山脈を越えて7時間ほど運転すると中西部オハイオ州に着く。同州北東部は、私が2015年12月から通い始め、時にはアパートに住み込んで取材した地域。かつて製鉄業や製造業で栄え、高卒の労働者が「アメリカン・ドリーム」を達成した「労働者の街」だ。

 労働者は民主党支持の傾向が強かったが、一部があの大統領選では共和党トランプの支持に流れた。彼らの不安を要約すると「製鉄所や製造業のような賃金のよい仕事がなくなった」「子供世代はミドルクラスになれそうにない」であり、トランプ支持の理由は「誰もこの地域を助けなかったが、トランプは雇用を取り戻すと約束してくれた」となる。

 トランプは、彼らを大切にしてきた。再選に不可欠と見ているのだろう。トランプは就任半年の節目の集会を、オハイオ州ヤングスタウンで開いた。演説中に1人の男性を舞台に上がらせ、こう紹介した。「彼は生涯ずっと民主党員だったのに私に投票した。すばらしい男だ」。私が同行取材した、いずれも元製鉄所勤務のジョー(62)とマーク(60)も民主党からの転向組。まるで自分たちが大統領に褒められているかのような照れくさそうな顔をしていた。

 ステージでトランプは言った。「出て行った仕事は全て戻ってきます」「工場をフル稼働させます」「家を売らないで下さい!」。かつて17万人いた人口が産業の衰退とともに流出し、6万人台まで減ったヤングスタウン。貧困率は37%。会場は大歓声に包まれた。

 トランプの演説に「やられた」と認めたのが、地元の民主党トップだ。「労働者たちは、価値の下がった自宅を二束三文で売り払って、どこかに引っ越すべきかとずっと悩んできた。知ってか知らずか、トランプは『家を売るな』と言った。みんなそんな言葉を待っていた。だから彼の演説に夢中になるのです」。

 とはいえオハイオに仕事は戻ってきていないし、大統領の嘘やスキャンダルが繰り返されてきた。支持は揺るがないのか? ジョーはこう答えた。「オレたちは政治家がやるといってやらないことに慣れている。トランプが約束の1割でもやれば十分だよ」。①の支持は底堅い。

バイブルベルトには「文化的な不満」

 私は深南部アラバマ州に向かった。熱心なキリスト教徒の多い「バイブルベルト」だ。同州ブラウント郡の共和党委員長は「ここでは95%が日常的に教会に通う。中西部で『経済的な不満』がトランプ人気を押し上げたように、ここでは『文化的な不満』がトランプを後押しした」と解説した。

 人々は同性婚に反発する。同性婚は民主党オバマ政権時代に激変した分野の1つ。連邦最高裁が2015年、同性婚を全州で認める判決を言い渡した。米国では6月、性的少数派の人々のパレードが各地で開かれ、沿道を大勢の人々が埋める。日本でも報じられるので、全米が歓迎していると思いがちだが、実際は不満を募らせている人々が少なくない。

 アラバマ州の南部バプティスト教会に通う元電話技師ジョージ(72)は「神は男と女を創造した。男性2人や、女性2人では赤ちゃんを誕生させることはできない。婚姻は男女間のものであり、男性同士や女性同士のものではない。神が意図したものではないでしょう。間違っていると思います」と言い切る。

 キリスト教の慣習が姿を消していることへの不満も根強い。酪農業ドンはこう言った。「私たちが育った頃は、授業が始まる前に学校で毎朝お祈りがあった。ところがマダリン・オヘアという無神論者が裁判を起こし、お祈りを(公立)学校から追放してしまった。それ以降です。米社会が変わり始め、『メリー・クリスマス』ではなく『ハッピー・ホリデー』と言うようになったのです」。

 オヘアとは、1963年に厳格な「政教分離」を求める団体を設立した女性。公立校でのお祈りや聖書の朗読を問題視し、訴訟に持ち込んだ。最高裁は1962〜63年の判決で、公立学校での強制された祈りも聖書の朗読も違憲とした。いずれもキリスト教に基づいており、結果的に他の宗教を排除することになり、「信教の自由」を保障した合衆国憲法修正第1条に反するという趣旨だった。

 これらを背景に、宗教保守派が最大級の関心を払うのが、連邦最高裁判事の任命だ。ドンが言う。「トランプを支持する最大の理由は保守派の判事を任命したからです。ヒラリーが大統領になり、リベラル派の判事を任命していたら手遅れでした。最高裁はリベラルな判決を出し続け、米社会のリベラル化を50年は阻止できなくなっていた。トランプの功績は期待以上だったのです」。

 トランプは地方の裁判所でも保守派判事を任命しており、キリスト教系メディアは「素晴らしい」と歓迎する声を伝えた。米社会は都市部を中心に多様化と世俗化が進んでおり、南部に限らず、地方の白人高齢者には不満に感じている人が多い。彼らも熱心な支持者①だ。

 一方、迷いながらトランプを支持した②の人々には、気持ちが離れたり揺らいだりしている人々もいる。

 オハイオ州の車両整備士パットは、雇用が減る状況に変化を求めてトランプに入れた。長年政界にいたヒラリーは現状維持の象徴にしか見えず、「トランプで試した」。ところが2年後には「もう二度と支持しない。時給の高い仕事が戻ったか? トランプの約束は実現する気配もない。貿易交渉も独裁者のように振る舞っているだけで、いずれ(輸入品の)物価が上がり、しわ寄せはオレたちに来る」とすっかり気持ちが離れていた。

 ゼネラル・モーターズの工場閉鎖も響いている。トランプの「家を売るな」演説で胸が熱くなり支持者になった元従業員トミー(36)は「トランプの言葉を信じるのは難しくなるばかり。『仕事は全て戻る』との約束はどうなった? もう信じられない」と途方に暮れていた。

 2020年になり、トランプ政権の実績により厳しい目が注がれるようになれば、パットやトミーのような「元」支持者が増えるかもしれない。

「トランプ再選を阻止しなければ」との危機感も広がっている。2018年中間選挙では、そんな危機感が民主党を後押しした。全議席(定数435)が改選される連邦議会下院では民主党が40議席増を果たした。

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