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武田徹の新書時評|コロナ後の航空業界を考える

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。

新型コロナウイルスの感染拡大は経済に悪影響を及ぼしているが、中でも深刻なのが航空業界だ。各国で移動が制限された結果、世界各地で運航された航空便は4月上旬時点で昨年比約8割減。当然、巨額の収益減が予想される。

今後、航空業界はどうなってゆくのか。未来を占うにはその実態を知る必要がある。渋武容(しぶたけひろし)『日本の航空産業』(中公新書)では、第2次大戦後に旅客機開発にしのぎを削るようになった世界の航空産業の動向や、航空機開発が禁じられた占領期の逆境からスタートして国産機YS-11を生み出し、今は地域の航空需要に応えるリージョナルジェットの開発に挑戦中の日本の航空産業が紹介される。

産官学から講師陣が参集して担当した東京大学工学系大学院の講義「航空技術・政策・産業特論」を元にまとめられた本書を読むと航空産業の全容への見渡しが利く。航空産業とは、多くの航空会社が新型機を採用することで膨大な開発費が埋め合わされ、各種部品メーカーから空港の建設や経営までがすべて関係を結んで動くひとつのシステムなのだ。

客室乗務員もそうした航空産業システムを構成する一員である。山口誠『客室乗務員の誕生』(岩波新書)によれば、日本で女性客室乗務員は当初エアガールと呼ばれていたが、驚くべきことにエロ・ガールと紹介されることがあったという。今では許されない露骨さだが、女性性が強く期待されていた事情がうかがえる。そんな客室乗務員がキャビン・アテンダント(CA)という中性的な和製英語で呼ばれ、「おもてなし」の専門職と自他共に認めるようになるまでの軌跡を本書は丁寧にたどる。

今回、減便が続くなか、乗務機会が減ったCAたちが医療用防護服の裁縫を手伝っていると報じられた。美談ではあるが、おもてなしの実力を発揮できずにいる彼女たちがもう一度空を飛ぶ日は戻ってくるのだろうか。

去年5月に刊行された柴田伊冊『航空のゆくえ』(ちくま新書)は、人の移動や物流などにおいて国境という垣根が低くなる「水平化」が進み、航空はそれに応じて形を変えつつ発展してゆくと予言していた。しかしコロナ以後、国境の垣根は逆に著しく高くなり、航空会社の経営が圧迫され、影響は航空業界のすべてに及ぶだろう。それでも移動の自由や他者との出会いを求める人間性までもがコロナウイルスに侵されて失われなければ航空業界はいつか再び蘇るはず。航空の未来を考えるために次は人間性の検討へ、読むべき新書は繋がってゆく。

(2020年7月号掲載)


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