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【77-生活】ストロング系チューハイはもはや「薬物」対策が急務だ!|松本俊彦

文・松本俊彦(精神科医)

ジュース感覚で

私は大麻や覚醒剤などの薬物依存の治療を専門としていますが、少し前から、薬物依存から抜け出すために頑張っている患者さんが、薬物の代わりにアルコール度数が9%以上の「ストロング系チューハイ」に手を出して失敗するケースによく当たるようになりました。薬を我慢している代わりにせめて酒でも、と従来のチューハイやビールのつもりで手を出したら前後不覚になるまで酔っぱらい、薬の売人に連絡したり、路上で寝たりしてしまうのです。アルコール依存の専門家からも、ストロング系チューハイで変な酔い方をする人が増えているという声が上がっています。

特に危惧しているのは、ストロング系チューハイが若者の間で広まっていることです。今は、ビールや日本酒の味が苦手な若者が多いですが、ストロング系チューハイは、人工甘味料の影響でお酒の味がほとんどしないため、ジュース感覚で飲めてしまう。精神科の臨床現場には、お酒が飲みたいわけではないのに辛い気持ちを紛らわすための「薬」として飲んで、気づいたらリストカットをしていたという患者もやって来ます。

厚生労働省による多量飲酒者の定義は、「平均1日当たり日本酒に換算して3合以上消費する者」ですが、9%のストロング系チューハイを500mL缶で2本飲むと、日本酒換算で4合近い量になります。しかも甘い味のせいで、日本酒よりずっと早いスピードで飲むことができる。

私の臨床経験では、500mL缶を3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありませんが、そもそもアルコールは、大麻や覚醒剤といった違法薬物と比べても、酩酊時に暴力を誘発する力が強い。喧嘩による傷害事件では、加害者の半数~7割近くが犯行時に飲酒している一方、被害者の側も4割が飲酒していたというデータがあります。酔っているから暴力を振るうし、酔っているから自分を守れない。DVや児童虐待の加害者が、酒の問題を抱えているケースも少なくありませんし、自傷に向かうケースもある。働き盛りの男性が自殺する直前に飲酒していることも多いです。内臓の損傷や脳の萎縮も、アルコール依存症患者のほうが、違法薬物の依存症患者よりひどいのです。

こうしたモンスターのような酒が出てきてしまった理由の一つは、日本の税制度にあります。北欧などでは、アルコール度数に比例して税率を上げていますが、その理由は、アルコール度数の高い酒のほうが健康被害を招きやすいからです。つまり酒税率を上げることによって、国民がアルコール度数の高いものに簡単にアクセスできないようにし、国民の健康を守るというわけです。

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