
【10-スポーツ】 大坂なおみのメンタルはなぜ強くなったのか|近藤奈香
文・近藤奈香(ジャーナリスト)
大坂の“大きく変わった”姿
2020年9月12日(日本時間13日)、全米オープンを制覇し、自身3度目となるグランドスラムを達成した大坂なおみ(23)。決勝では元世界王者のアザレンカを相手に第1セットを奪われる苦しい展開ながら、見事に逆転勝利を収めた。その充実ぶりをBBCのテニス担当編集委員のラッセル・フラー氏は、次のように評した。
「22歳のオオサカはここ1年半、世界で最も注目されるスポーツ選手の一人になったことに苦慮し、精神的なダメージも受けていた。(中略)だが彼女は今、大きく変わっている」(同日のBBCオンライン記事)
フラー氏が指摘する通り、2年前に弱冠20歳で全米オープンを初制覇した“シンデレラ・ガール”は、その後、思うような結果を残せずに苦しんでいた。手がつけられないほどの圧倒的な強さを見せたかと思えば、次の試合では自分のミスに苛立ち、ラケットを投げつけ、自滅する――そんなことが続き、昨年のウィンブルドンでは屈辱の1回戦敗退。関係者の間からは彼女のメンタル面の弱さを指摘する声が相次いでいた。
それだけに、新型コロナによる5カ月間のツアー中止期間を経て、今大会に臨んだ大坂の“大きく変わった”姿は、人々を驚かせたのである。
試合内容の充実ぶりもさることながら、これまでシャイなイメージだった彼女がコートの内外で強烈な社会的メッセージを発信し始めた点は、とりわけ注目に値する。
全米オープン開幕前の8月23日、黒人男性ジェイコブ・ブレイク氏が警官に銃撃される事件が起きると、大坂はSNSに「私はアスリートである以前に黒人女性です」と綴り、全米オープンでは初戦から決勝戦までの全7試合、警官らによる暴力で亡くなった黒人の犠牲者の名前が書かれたマスクを着けてコートに現れた。用意した7枚のマスクすべてを世界の人々に見せるためには決勝まで進むしかないという状況をつくり、「自らモチベーションをさらに高めた」(コーチのウィム・フィセッテ氏)という。
大坂自身も「2年前の自分だったら想像もできないこと」と語るほどの“変化”は、どのようにして、もたらされたのだろうか。
ひとつには、“バスケ界の伝説”元レイカーズの故コービー・ブライアントとの交流が挙げられる。全米初制覇後の大きなプレッシャーに晒されて、なかなか結果が出なかった昨年6月、大坂はコービーと出会った。コービーは、大事な試合での敗戦に落ち込む大坂に「負けたことから学べ」とメッセージを送った。