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戦後ドイツ的倫理観を無効にしかねない新興右派勢力の猛威

文・マライ・メントライン(職業はドイツ人)

 ドイツの極右勢力といえば「ネオナチ」のイメージが強いが、特に近年、極右の実態および社会的ポジションは大きく変化した。鉤十字の旗をふり回すスキンヘッドの集団という、日本人が抱くイメージは現実とかなりズレてきている。

 ステレオタイプなネオナチもまだ存在してはいるが、全体的には、今や骨董的な存在として右派からも左派からも憐れまれる存在だ。目端の利く極右は、社会的に不利になるだけの「ナチ」要素を切り捨て、むしろ旧来のナチ的イメージを否定的に利用しながら自らの存在の正当化を図るようになってきた。

 ドイツでの最近の反ユダヤ的暴力事件には1つの傾向が存在する。例えば2018年、シリア難民の男性が、路上でユダヤ教徒の帽子を被った移民を革ベルトで攻撃する事件が発生した。また学校でも、ムスリムの生徒が喧嘩相手を「ユダヤ人」と呼ぶケースの増加が問題視されている。その背景には、ナチズムよりも遥かに歴史的に根深い宗教対立が存在し、ゆえに、対ナチ的に効力を発揮する戦後ドイツの倫理観は、ここで思考停止に陥らざるを得ない。ドイツ当局もドイツ社会も、効果的な手を打ちにくい……。

 このような、ナチズムと直接的なつながりを持たず、簡単には排除しにくい文脈のもと、あるいは根拠不明に実行される「国粋主義的・排外的な活動」を、背後から支援しプロデュースするのが最近のドイツ極右の主たる活動で、欧州の他の反EU的勢力やロシアと連携しつつ、SNSや動画配信を駆使するのが特徴だ。

 日本でもしばしば報道されるドイツの反EU政党「ドイツのための選択肢(AfD)」や市民団体「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者(PEGIDA)」は、あくまで「右派」であり「極右」ではない、と自ら表明しているが、実はその背後の指揮系統には極右人脈が介在している。

 AfDやPEGIDA隆盛の背景にあるのは、東西統一後のドイツの内政的な偽善と矛盾だ。東西統一は、西側的な価値観に順応できるタイプの東側人材の流失を招き、それはそのまま東西の経済的格差となった。東側の土地とインフラと住民は、西側の経済システムの下部構造として固定化されてしまった。そしてドイツ中央政府は延々と空手形を切り続けた。次は、次こそは、旧東独エリア住民の生活の「底上げ」を図るから、と。

 だが15年、難民を外部から無条件に受け入れて保護する、という政府決定でまたも自分たちが後回しにされたことが判明した瞬間、多くの旧東独住民の堪忍袋の緒がついに切れた。難民受け入れの主眼はEU外交的なアピールだ。自分たちの価値はその政治性より軽い。連邦政府に従っている限り自分たちは永遠に「負け組」だ。もういいかげんにしろ! と。

 この文脈で発生した「反EU」「反移民・難民」主張は強烈なパワーと普遍的な説得力を持ち、きれいごと的な倫理では反論にならず、ゆえに有能な極右人脈にとって利用価値のある展開となった。またここで注目すべきは、それまで「非インテリ」的なイメージから右派思想と距離を置いていた高学歴・知識層が、AfDやPEGIDAを通じて右派・極右人脈に流入しはじめ、その学識を活用するとともに、組織活動に社会的な地位と権威性を与えるようになったことだ。これは教養権威主義の強いドイツで、地味ながら大きな影響を持つ変化といえる。

 他方、極右思想や活動を押さえ込む「戦後ドイツ的」倫理の現状はどうなのか、といえば、率直なところ脆弱化していると言わざるを得ない。

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