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落合陽一 ウィズコロナの世界に失われつつある質感や匂いや触覚を探している|特別寄稿「#コロナと日本人」

新型コロナウイルスは、世界の景色を一変させてしまいました。文藝春秋にゆかりのある執筆陣が、コロナ禍の日々をどう過ごしてきたかを綴ります。今回の筆者は、落合陽一氏(メディアアーティスト・筑波大学准教授)です。

photocredit_蜷川実花

写真/蜷川実花

幼子の僕が2020年に思っていたものとは違う風景を生きながら自然について考えている。自然の匂いは変わらないはずなのに、ウィズコロナの風景の中で人の持つ情念が乾いている気がする。夜の散歩が減ったせいか空気を感じながら歩くことも減ってしまった。

6月初旬の梅雨入り前は夜の散歩が心地よい季節のはずなのに、ここ数ヶ月の匂いの記憶がないのはやはり外に出る回数が少ないからなのだろう。視覚や聴覚で代替的に過ごしてきた期間が色のない記憶として失われつつある中で、オーディオビジュアルで看過できる人生の領域は極めて小さいのだと思う。

この季節にアメ横あたりをふらついて、提灯のそばで焼き鳥の匂いを嗅いでいた時代が懐かしい。煙たくて密だった風景と決別してからしばらくの時間がたった。

匂いや手触りに対するリアリティのなさを嘆きつつ、数週間先の約束事のリアリティのなさにも目眩がする日々を生きている。明日のことは分かっても1週間後のことを予測するのは難しくなった。ウィズコロナの世界においても日常は続くと考える人々とこれまでの日常は続かないという人々との間にもまれて過ごす。新しい日常という日常の亜種のおかげで日常の定義は押しては返す波の中だ。何が日常だったのかを思い出すことができない。

夏が近いことを知らせる風が吹いているのに、都市の中に季節を思い浮かべることが難しい。季節感のある出来事が全て三密の中にあったから、それが全部消しゴムで消されたように色を失っている。花火の音も光も夏祭りの提灯も屋台の食紅も思い出せないコンクリート色の街が広がっている。今ここで認識しているこの世界が今この瞬間も漂白されていくような気分の中で、季節が抜け落ちた時間のはざまに取り残されている。人の戸惑いとは関係なく進む時間への違和感とともに生きる感覚は生まれて初めてのものかもしれない。

4月の桜も記憶の中に冷凍保存されてしまった。記憶の中の桜に匂いがない。空気が沸き立たず、凍った表面に分子が張り付いている。ビジュアルを眺めた記憶はあっても日差しの温度と空気の匂いを思い出すことができない。

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