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「朱色の化身」著者・塩田武士さんインタビュー

グリコ・森永事件を題材にとり80万部を突破したベストセラー『罪の声』(講談社)など、元神戸新聞記者の経歴を活かした作品を数多く発表してきた塩田武士。作家デビュー10周年に書かれた本書も、真実を追う記者を描きながら、新しい創作手法にも挑んだ意欲作だ。

「福井県の芦原温泉を訪れたとき、神社の看板に『昭和31年の芦原大火で温泉街が灰燼に帰した』とたった2行で書かれていたんです。これは作品のテーマになると直感して取材を始めました」

主人公のライター・大路亨は、自身の父親からとある依頼を受け、辻珠緒という女性の家族について調べることに。だが、優秀なゲームクリエイターだった彼女は謎の失踪を遂げていた。

「彼女の人物設定以外、この本の内容はほとんど実在のものです。今回は、ジェンダーや依存症、テクノロジーといったキーワードを事前に挙げ、それらを別々に取材して得た事実を貼り絵のように組み合わせて書いていった。芦原大火の火事場泥棒、ゲーム依存で崩壊した家族、かつて京都大学では男子トイレのなかに女子トイレがあったこと。膨大な“実”を固めて、その中心に辻珠緒という“虚”を浮かび上がらせたんです」

虚実を織り交ぜ、圧倒的なリアリティをエンタメに昇華する塩田作品の真骨頂は、本作でも存分に発揮されている。

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