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愛子さま「お召し物ダイアリー」佐藤あさ子

文藝春秋digital
折々のファッションが物語る“ご自覚”の芽生え。/文・佐藤あさ子(皇室ジャーナリスト)

雅子さまの思いやスタイルを継承

3月17日、ご成年を迎えたことを受けて開かれた初めての記者会見。天皇陛下の長女・愛子さまがお召しになったのは、春らしい若草色のスーツだった。肌の色によく合っていて品が良く、パールのアクセサリーの輝きを一層引き立てていた。

「父から聞きましたのは、聞いてくださっている皆さんの顔、お一人お一人の顔を見ながら、目を合わせつつ、自分の伝えようという気持ちを持って話していくというのがコツだというふうに、他にもございますけれども、そのようなことをいろいろ教えていただきました」

こう天皇陛下からのアドバイスを明かされたところなどは、愛子さまのユーモラスなお人柄がよく表れていたと思う。記者全員のことをゆっくりと見渡すようにお話しになり、優しげながら目力のある豊かな表情に堂々たる貫禄を感じた。

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成年会見は若草色のスーツ

そのお姿を拝見して、雅子さまが2019年5月、天皇陛下の即位をお祝いする一般参賀でお召しになっていたひわ色のドレスを思い起こした。若草色も鶸色も、ニュアンスのある絶妙な色味で、やわらかな印象を与えていた。愛子さまは一連の成年行事の際にお召しになったジャケットと同様に、今回もテーラードカラーのジャケットをお選びになり、雅子さまの思いやスタイルを継承されているようだった。

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天皇陛下即位の一般参賀にて

一方で、袖口にあしらわれたフレアなデザインや、愛子さまのご定番ともいえる“ショート丈”など、細部には可愛らしさを感じさせるガーリーなテイスト。ヘアアレンジにも愛子さまのこだわりが見てとれた。

会見の後、ある宮内庁関係者は感極まった様子でこう話していた。

「ご立派、その一言に尽きます。ご自分の短所についても『小さい頃から人見知りのところがございますので、これから頑張って克服することができれば、と思います』とお話しになりました。未熟さも含めてご自分をしっかり見つめているという、こうしたご姿勢こそ、多くの人の心に響いたのではないでしょうか」

近年の愛子さまを拝見するたびに私は心が安らぐ。それは天皇の長女という特別なお立場にあることの“ご自覚”をとても強く感じるようになったからだ。今回は学習院初等科に入学された頃からの取材メモを振り返り、折々のお召し物も紹介しながら、愛子さまの“ご自覚”の芽生えの軌跡を辿ってみたい。

初の肉声は中学入学式

私が初めて愛子さまの肉声を聞いたのは2014年4月6日、学習院女子中等科の入学式だった。新宿区戸山の緩やかな坂を上ったところにある学習院女子中等科の校門前には大勢の記者や皇室ファンが集まっていた。この日は晴れたり曇ったり。時間が経つにつれて暖かな春の日差しを感じたが、朝は肌寒かった。

愛子さまは初等科時代と変わらぬセーラー服だったが、ネクタイの色が赤から紺に変化。髪はサイドを三つ編みにしてポニーテールでまとめていて、大人びて見えた。

「ありがとうございます」

「楽しみにしています」

校門前で報道陣から入学を前にした気持ちを問われた愛子さまは大きな声でハキハキと答えられた。女の子らしい少し高い声。私たち記者にとっては、初めて質問にしっかり答えていただいた快挙の瞬間だった。記者たちは「やった」「よかった」と喜び、現場は一気に活気づいた。

明るさに満ちた愛子さまの受け答えは、3週間前とは大違いだった。3月18日、学習院初等科の卒業式でも愛子さまは報道陣から声をかけられたが、恥ずかしそうな表情を浮かべ、記者たちと目を合わせないようにしているようだった。どう答えるベきか困ったようにすぐに横にいた雅子さまに相談されていたが、お声を聞き取ることはできなかった。卒業式から入学式までの短い間に、報道陣への受け答えの練習をされたのかも知れない。内情を知る前出の宮内庁関係者が説明する。

「なぜ注目されているのか、初等科時代はご自分のお立場を理解されていなかったと思います。愛子さまは本来とても明るく活発でひょうきんなご性格です。でも人前に出ると、恥ずかしがり屋さんの性格もあって身構えてしまう。初等科時代は欠席が続き不登校気味の時期もありましたし、『笑顔が少ない』とも言われていたけれど、そんなことはない。外では本来の自分を表現できなかったのだと思います。

両陛下は『自分の立場を自然にわかっていってほしい』というスタンスでした。折に触れて教えてはいらしたけど、強く言い聞かせたり、無理強いしたりすることはなかった。

転機は中等科ご入学の頃。両陛下は愛子さまに皇族としての活動の幅を広げてほしいと思うようになられたそうです。愛子さまご自身も皇族としてのご自覚が芽生えてきた頃でした。親子揃って、皇族教育の“実践開始”だ、というタイミングが一致したのだと思います」

2014年4月、学習院女子中等科の入学式を前に記念写真に納まる愛子さまと皇太子ご夫妻

2014年の中等科入学式

「ファースト・パンプス」

“実践”の第一歩は2014年、中学1年生の夏休みだった、と私は見ている。その年の7月28日から、ご一家揃って出かけられた伊勢神宮参拝だ。

ご一家が降り立つ近鉄宇治山田駅や、内宮に続く道路には多くの人が集まった。私は内宮に続く宇治橋のたもとにいた。ご一家を乗せた車列は17時過ぎに白バイに先導され、ゆっくりと私たちの前を通り過ぎていったが、車中ではずっと窓を開けて、ご両親だけでなく、愛子さまも人々の歓迎に応えていた。周囲では「愛子さま、初めまして~。大きくなられました~」といった声が次々に上がり、人々の興奮はクライマックス。クリーム色に白い襟のワンピースを着た愛子さまは、ご両親に倣って沿道の人々の方に体を向け、指を広げ力強く手を振り、弾けるような笑顔で会釈を繰り返した。初等科時代もご静養先などでお手振りをされる機会はあったが、恥ずかしそうでぎこちなかったことを思うと、ご成長ぶりに私は感激した。

ご一家は内宮内の斎館に宿泊され、地元の割烹料理店が作った揚げ物や煮物、鮪のお作りが詰められた松花堂弁当を召し上がったという。

「メニューを決める際、宮内庁と店側が何度もやり取りし、『愛子さまにはスパゲティでもハンバーグでも何でもお好きなものをお作りします』と申し上げたところ、『両殿下(当時)と同じものでお願いします』と宮内庁側から返答があったそうです。わがままを言わないお子さまだと感心しました」(地元関係者)

中等科2年生となられた2015年の夏には、2つの戦争関連の企画展をご覧になった。愛子さまが戦争関連の催しにお出ましになるのは初めてのことだった。

7月26日、ご一家がまず訪れられたのは、東京・九段下の昭和館で開催されていた「昭和20年という年~空襲、終戦、そして復興へ~」。私は会場前の歩道から取材したが、真夏の太陽の下、黒山のひとだかりで熱気がむんむん。うだるような暑さだったが、愛子さまは薄いピンクのセットアップ。ショート丈ジャケットの肩口にはふわっとギャザーが入っていた。スカートでストッキングに白いパンプス。赤ちゃんが最初に履く靴を成長を祝う意味をこめて「ファースト・シューズ」と呼ぶが、この日は私が見た愛子さまの「ファースト・パンプス」だった。

「ご一家はまず、3階にある特別企画展の会場で昭和天皇の玉音放送をお聞きになりました。その後、国民学校の女子児童が玉音放送を聞いた後に書いた、《先生からくわしいわけをお聞きした時、わたしは泣けて泣けて仕方なかった》という作文をご覧になり、愛子さまは神妙な面持ちで、熱心に見入られていました」(宮内庁担当記者)

この年は8月にも、ご一家で千代田区立日比谷図書文化館で「伝えたい あの日、あの時の記憶」という戦争関連の企画展を見学された。

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昭和館にて(2015年)

天皇退位と愛子さまのご自覚

こうした“実践”はさらにステップアップしていった。一つのきっかけは、天皇(現上皇)陛下の生前退位だ。NHKのスクープで退位のご意向が明らかになった2016年の夏、愛子さまに国民からの視線を強く意識するような変化が見られた。中学3年生の夏休みだった。

だが他方で、この頃、愛子さまが急にスリムになられたのに気付かなかった記者はいないだろう。私が最初に「おや」と思ったのは、NHKの報道から8日後の7月21日、奈良・京都ご訪問のときだ。

その日、ご一家は3人おそろいで東京駅の東海道新幹線のホームに姿を見せられた。愛子さまはもともと背が高くて手足が長い。このときの愛子さまはさらに足を長く見せるハイウェストの水色ワンピースをお召しになり、ご夫妻の後ろから胸を張って颯爽と歩き、新幹線に乗り込まれた。長年の皇室ファンはこのときの対応に驚いたという。

「こういう場面ではいままで、警備の方から『写真を撮らないで』とさんざんご注意があったし、雅子さまと愛子さまも発車までの間、視線が泳ぐというか……、所在なさそうだったの。でもこの時はホームに向かって1分間くらい、カメラ目線で手を振ってくださった。こんなことは初めてでした」

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2016年7月、奈良・京都ご訪問

訪問先は初代天皇を祀った神武天皇陵(奈良県)。愛子さまにとっては初めての参拝となった。参拝後、ご一家は京都大宮御所で1泊された。

「ここは天皇皇后両陛下と皇太子同妃両殿下が京都市内にお越しになるときにお泊まりになる場所です。宮家の皇族は宿泊できない。愛子さまは東宮家のお子様ならではの経験をされたのです」(別の宮内庁関係者)

天皇陛下が退位の意向を国民に知らせた「象徴としてのお務めについて」のお言葉を述べられたのが、8月8日。翌々日の10日、愛子さまはご両親とともに「第1回『山の日』記念全国大会」ご臨席のため、長野県松本市を訪れられた。JR中央線の車内では上高地の自然についてご両親から教わっていたという。

「そんなことないですぅ」

松本駅の駅前、淡いパープルのワンピースをお召しになった愛子さまは、人々の歓迎に手を振って応えた。11日にはご一家でチェックのシャツを着て式典にご臨席。帰りの松本駅前では人々から大きな拍手が送られた。

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