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『全裸監督』原作者、「戒厳令下」の欲望の街を往く

コロナ禍でとりわけ打撃を受けたのは、ホテル業、飲食業、そして風俗業だ。感染が急速に拡大する中、こうした職業に就く人々はどうしているのだろうか。渋谷、池袋、新宿、上野……『全裸監督』原作者で作家の本橋信宏氏が、普段は賑わう東京の繁華街を訪ね歩いた。

コロナ禍にあえぐ繁華街

人妻はコロナを一気に飲み干した。

喉の蠕動(ぜんどう)とともにふくよかな胸の谷間にしっとり汗をかいている。

「今度の感染でイメージがわるくなって売上げががた落ちなんですって。少しでも助けてあげなくちゃ」

人妻は情け深い。

メキシコ産ビールの名称がウイルス名と同じために、売上げが激減しているという噂を聞きつけ自分でできることをしようとしているのだ。

池袋のとあるカフェで再会した41歳の人妻は、かようにやさしさに包まれた熟女なのだが、夫に言えない秘密があった。

「2月の終わりごろから出勤停止です。2月からコロナって急に騒ぎ出したでしょ」

この奥さん、上野の熟女キャバクラに在籍して小遣い稼ぎしている。夫には、上野の深夜レストランでアルバイトしていると偽っているのだ。

「サラリーマンの歓送迎会見込めたのがコロナのせいで壊滅的になっちゃって、店からお達しが来るんです。ツイッター、インスタ、フェイスブックに、人が溢れている繁華街や密閉されたカラオケボックス、ライブハウスみたいな写真をアップするなって、お店から来るLINEがすごく厳しくなったんですよ。お店が1番心配しているのが、コロナ感染者が出たという風評被害で営業できなくなることなんです」

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日本の男たちは少女趣味(ロリコン)が強い、という誤った言い伝えがあるが、この奥さんが働く店のように、水商売、風俗業界は20年程前から熟女ブームが席巻している。政治家たちの愛人も昔から50代以上の熟女が多いように、日本の男たちは、気配りができてやさしくて多少贅肉がついた熟女が好きなのである。40代50代の熟女が主演するAVがよく売れる、というのもわが国ならではのことである。

この奥さんが在籍する熟女キャバクラでは、会社の飲み会から流れてくる2次会的な客がよくやってきたのだったが。

「会社の福利厚生費が使えないんです。部下と一緒に会食とか送別会のときのお金が出ないんです。パソコンの福利厚生費の決済ボタンクリックしようとしても、固まって申請できないんですって。会社が出させないんです。もしもコロナ感染したなんてことになったら企業イメージ大打撃ですからね」

新型コロナウイルス感染症が世界各地で広がっている。

3月19日に小池百合子都知事が会見した際には、18日の時点で都内の感染者数は111人になったと公表した。足りないマスクも公共施設を対象に350万枚配布するという。

新型コロナウイルスという目に見えない難敵が私たちの社会を侵食しだした。

長い人生のなかで滅多に遭遇しない歴史的な事態に直面しているのではないか。

この際、テレビ、新聞はもちろんネットでも拾いきれない、表に出てこないナマの声を求めて、コロナ禍にあえぐ繁華街を、この目と耳と足で報告するのも無駄ではないだろう。

歌舞伎町

歌舞伎町からも人が減った

「全然客が来ない」

「渋谷のデリヘル(派遣型風俗店)に在籍したんだけど、客がとれないんで池袋のデリに移ったんです。そこでもコロナの影響で全然客が来ない。秋田のデリがめっちゃ儲かっているんだって友だちから聞いたんで行ってみたんですよ。普通、東北の人が出稼ぎで上京するけど、風俗は逆。あちらで陸上自衛隊のお客と知り合って、つきあってるんです。向こうは“結婚してほしい”って言い出してる」

熟女デリヘルに在籍する彼女は実年齢28歳、逆サバで32歳ということにしている。男が女の若さだけを求めているのではないということがよくわかる。

渋谷道玄坂を上がった百軒店の雑居ビルに、とある事務所がある。

ここは「乳パラダイスDX」。

母乳・妊婦専門のホテヘルである。

世の中には母乳を吸いたい、妊婦と接してみたいという、人に言えない願望をもった男たちが少なからず存在する。

「母乳プレイと妊婦プレイを求めるお客さんはまったく異なりますね。母乳マニアはチュウチュウおっぱいを吸いに来る。とにかく母乳が大好き。母乳飲んで癒やされて帰るんです。発射しなくていいんです。妊婦マニアは妊婦ってどうなってるんだろうと関心を示す。お腹の大きくなった妊婦さんを自分のものにしてしまう、寝取りの快楽があるんですね」

落語界初の人間国宝、5代目柳家小さんを彷彿とさせる店長が語る。

「でもね、おっぱい大きくてお乳の出る子、少なくなりましたね。昔は炭水化物いっぱいとったからおっぱいもたくさん出たんですけどねえ。お餅とせんべい食べるとよく乳出ますよね」

外国人客シャットアウト

そんなマニア店の店長が今回のコロナ禍を語る。

「関西から来るお客さんが来なくなりました。あとはコロナ前は外国人もお断りしなかったんです。なかでも多かったのが台湾と中国のかた。来日する中国人観光客のガイドさんたちがよくうちに来てくれてたんです。観光客がディズニーシーで遊んでいる間、うちに来るんです。ガイド仲間で噂になってるんですね。でも今回の件でうちだけでなく風俗店はほとんど外国人客シャットアウトです」

以前の客数から3割減ったという。

「3割減っていうのは風俗店にとって大変厳しいんですよ。そんなに資金はないから。うちはまだマニアックだし老舗だからいいけど、新しいところは厳しいですねえ」

店長によると、いままで3回、経営危機に襲われたという。

「まずはリーマンショック。これで風俗遊びでカードきることが激減しました。風俗店で使えるカードの仲介業者が潰れたんです。その後は東日本大震災。このときはお客よりも女の子たちが出勤しなくなった。やっぱり恐かったんでしょう。私は福島県浜通りのいわき市生まれだから、宮城県沖地震(1978年)体験してるんです。あのときは大きな揺れが2回来ました。3回来たら終わりだと思いました。そしたら今回は3回来た。ああ、やばいなあと思いましたね。出勤した奥さんたちが待機する部屋があるんですが、そこで赤ちゃんを連れてくる奥さんがいていつも5人くらい赤ちゃんがいるんです。あのときも、揺れるなか赤ちゃん抱っこしながらあやしてましたよ」

妊婦や出産直後の女性にとって乳パラダイスDXのような風俗店は、願ってもない職場だろう。本来ならもっとも仕事がない状態のときにしかできない仕事なのだから。

「それからのりピー事件。酒井法子の元ダンナさんが警察に覚醒剤所持で捕まった現場、のりピーが逃げたのがこのすぐ近くなんですね。毎日報道のカメラがいたから奥さんたち、顔バレが嫌で店に来ないんですよ。でもね、今回のコロナが一番大変。飲食店は食中毒以外なんとか持ちこたえるでしょうけど。あの“濃厚接触”という言葉がいけませんね。風俗ってみんな濃厚接触型じゃないですか。まずいなあ、あれなんとかなんないですか。待機室の赤ちゃんがオモチャを舐めるからアルコールティッシュが必要なんです。でも足りなくなりましたねえ」

常駐しているベビーシッター2名とともにオモチャをアルコールティッシュで拭く古希の店長。

これも世界に誇るジャパニーズ風俗なのだ。

気にしてたらやれない商売

「コロナ感染は集団でいる密閉された空間で起きやすいという情報が流れましたよね。キャバクラのような集団で会うのと違って、うちみたいに個別で遊ぶ店は安心感があるみたいです。それに風俗遊びするお客さんって、風邪気味の女性とでもプレイするじゃないですか。気にしてませんよ」

渋谷熟女ホテヘル「最終章」スタッフがコロナ禍の影響を語る。

この店、平均年齢40歳の熟女・人妻風俗で、本番以外のプレイはたいてい揃っている。

異色なのは、在籍女性たちのプロフィール写真に「ばばぁ」というキャッチが付けられていることだろう。

「ばばぁと呼ぶことによって敷居が低くなるんです。それにお客さんが、ばばぁって何って思ってくれることが風俗では一番大事。1000店もある風俗店のなかから、何これって選んでくれるには、みんな同じできれいで可愛いじゃあ特徴がない」

失敗をおそれ平均値をとるビジネスは、消費者の記憶に残らず、失敗する。47歳、関東地方出身のスタッフはこの法則を熟知していた。

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