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“東大女子”のそれから|栗崎由子さん(グローバルダイバーシティ コンサルタント)

日本の大学の最高峰「東京大学」に初めて女子が入学したのは1946年のこと。それから74年――。本連載では、時代と共に歩んできた「東大卒の女性たち」の生き様に迫ります。第4回は、異文化マネジメントの専門家であり、多文化共生ファシリテータである栗崎由子さん(1978年、教養学部人文地理学分科卒業)にお話を伺います。日本企業を出て国際社会でキャリアを築き、50代での失業を乗り越えたヨーロッパ生活は、約30年にも及びました。/聞き手・秋山千佳(ジャーナリスト)

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栗崎由子さん

――1989年から2018年まで30年近く、パリに本部を置く経済協力開発機構(OECD)や、スイス・ジュネーブに本社のある国際通信会社SITAなどヨーロッパで働いてこられたんですね。東大という看板がまったく通じない世界だったとか。

栗崎 はい。東京にあるから東京大学でしょう、という程度で看板としての意味はゼロでした。

――東大が通じないことはよかったですか、もどかしかったですか。

栗崎 わたしにとっては良いことしかないです。そもそも日本で私が「東大出身です」と公言できるようになったのはここ数年のことなんです。女性が東大出身と言うのと男性が言うのとでは、受け取られ方が違うと感じていましたから。東大には他の女子大の人たちが部活動やサークル活動に大勢来ていました。その光景を見て、わたしのような東大の女子学生には居場所が無いように感じていました。女子扱いされていないように何となく感じたんだと思います。ところが東大の外に出るとパワーエリートのように扱われて、自分が鳥でもない獣でもないコウモリになったようで。ですから学歴の話は絶対に自分からはしませんでした。

――その思いが晴れたのが帰国の前後ということですか。

栗崎 そうですね、割り切れたんです。大学にランク付けをする人々の心まで私は責任を取れないと思いました。こう思えるようになったのはヨーロッパ生活のおかげです。日本ではあらゆることに上下の価値づけをしますし、また社会の同質性がものすごく高い。誰もが同じ価値観を持つことが期待されているというか。そんなことを含めて、今は日本とヨーロッパの違いが面白いと感じます。

――どちらが「良い」「悪い」ではなく、「違い」。

栗崎 そうです、価値判断抜きの違いです。日本でヨーロッパの話をすると「ヨーロッパは日本より良い」という意味だと解釈する人が多いのですが、「ヨーロッパで外国人として失業してごらん、日本人が日本で失業するより大変だよ」といつも内心で思っています(笑)。

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――53歳の時、ジュネーブのSITA(航空会社専門の国際通信網及びシステムプロバイダ)でリストラに遭ったんですよね。3年半の失業期間中、200通以上の履歴書を書きながら、寿司屋のアルバイトや報道取材助手、臨時秘書などどんな仕事でもこなしたとか。その経験をブログに綴っていたのはなぜですか。

栗崎 当時は履歴書を出してもなしのつぶて。まるでわたしが世の中に存在しないように扱われてとても辛かったんです。お正月に日本に戻ってしょぼんとしていたら、大学の先輩で、当時朝日新聞論説委員だった竹信三恵子さんが「あんたには書く力がある。今の経験を書きなさい」と励ましてくれて。それでブログを始めて、お寿司屋さんのレジ打ちで失敗したとか、夜中に書いていました。書かないと気持ちが落ち着かなくて眠れなかった。ブログがあったから私は病気にならずに済んだと思います。

――このブログが後に、ご著書『女・東大卒、異国で失業、50代半ばから生き直し』(パド・ウィメンズ・オフィス、2014年)となりました。「女・東大卒」をタイトルの冒頭に持ってきたのは?

栗崎 出版社の方のご意見です。タイトルに「東大卒」という言葉を入れるべきだと言われて。わたしは嫌だったんですけど、「目を引くから」と。でもこれを入れたおかげで私が生きやすくなりました。このタイトルを見て、多くの方は混乱するんじゃないかしら。エリートで華々しい活躍をしているはずの女性が、50代半ばで、それも外国で失業する冴えない現実。そんな思いがけない想像と現実のギャップを知った人は、私への思い込みを忘れてくれるんじゃないかと思うんです。

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