イベントレポート「阿川佐和子さんが体験した介護の話と ”争族”にならないための早めの手立てとは?」
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イベントレポート「阿川佐和子さんが体験した介護の話と ”争族”にならないための早めの手立てとは?」

去る9月8日、文藝春秋によるオンラインセミナー「相続で知っておきたポイント」が開催された。三井不動産レッツの協賛による本イベントは、第1部に作家・阿川佐和子さんが登壇しご自身の介護体験がテーマの講演と、第2部の三井不動産株式会社 レッツ資産活用部・杉谷隆さんによる相続にまつわるヒントに富んだセミナーとなった。

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第一部は、作家・阿川佐和子さんをゲストに迎え、「父と母からの贈り物」と題して、ご両親の介護を通して教えられたこと、受け取ったものについて話をうかがった。

阿川さんは、父で作家の弘之さんを2015年8月に、母のみよさんを2020年5月に亡くすまでの9年間、介護を経験した。

「私の場合、父が体が弱り、母もだんだんもの忘れが多くなり、とうとう来たな、と。うちは4人兄弟で、私以外は男ばかりなので、こういうことは娘の私が率先してやるのが大事なんだろうと思っていました。当時、まだ独身で機動力もあったから、仕事を半分に減らして、文春の仕事も半分にして(笑)、実家に戻るしかないか、と覚悟を決めた時に、同世代の友人で介護経験のあった一人が、『アガワさ、2~3年がんばろうと思ってるでしょ?』と。『いや、覚悟を決めようと思ってる』と答えたら、『2~3年じゃ済まないわよ。10年かかるかもしれないし、20年かかるかもしれないし、そういう覚悟ある?』と言われて、『えっ!? そんなに続くの?』と聞いたら、『だからこそ、力んじゃダメ。それから、一人でがんばろうとか、完璧に悔いないようにやろう思ったら自滅するから、なるべく気を抜いて、ゆるゆるやりなさい』というアドバイスをもらったんです。これはすごく大事でしたね」と、初期のうちにかけられた経験者からの言葉が救いになったという。

そして、実際に介護生活が始まった。
「父は、私が子どもの頃から『いいか、オレを老人ホームに入れたら自殺してやる!』と喚いていた人だったので(笑)、施設に入れるのは難しいと思っていたんですが、誤嚥性肺炎を起こしたり転んだりした結果、母に全部負担をかけるのは無理だろうということで、家には帰りたいけど仕方がないと、病院に入って静かにしてくれていたんです。静かでもないかな?(笑) 片や、母は認知症が進んでいくと、最初のうちはこちらも慣れないし、あれだけ明るくなんでも判断ができる母が、どんどん壊れていく姿を見るのは悲しかったから、最初の頃は衝突しました。それでもだんだんこちらも学習してくると、ある日、人間全部壊れたという風に判断しないで、母といまを楽しく生きようと決めたんです。いま現在、少なくとも2~3分の間、何かに笑って、反応していることが楽しければいいと。真実を教えようとすると、こっちもイライラするし、あっちも、なんで年がら年中怒られなきゃいけないのかとイライラする。ところが、いま現在、母がきれいな花ねと言って、それが5分後にまた、あらきれいな花ねと、それを100回繰り返しても、ほんとだねと言って相手をしている。それに飽きてきたら、花から話題を変えて空もきれいだよ、というふうにして、心を移していく。過去とか未来のことを全部捨てて、いまを楽しむということですかね」と、阿川流介護の極意の一端を教えてくれた。

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中には、こんな辛いこともあった。
「ある時、母の部屋を調べていたら、ちっちゃなメモがいくつも出てきたんです。そこには『忘れる忘れる』、『バカバカバカ』、『私はなんでこんなに忘れちゃうんだろう』と書いてあって、そのメモを見つけた時には、私も泣きましたね。あ、本人も辛かったんだと理解しました」

阿川さんが、このような経験をもとにした小説『ことことこーこ』(角川文庫)は、今年の8月に文庫化された。
「卑近な例を小説にするのはいかがなものか、と思う気持ちもあったんですけど、介護の日々って、毎日いろんなことが起こり、毎日いろんなことの選択があり、毎日いろんな変化が起こっていくから、これは、いま、現在進行形で起こっていることを自分の体験として留めておいて、熟成させて、文章にすることは無駄じゃないんじゃないかと思って物語にして書いたんです」

そして終盤は、この『ことことこーこ』でも描かれた実家の売却や、認知症の親の財産をどうするかについて、三井不動産 レッツ資産活用部の杉谷隆さんを交えて様々なケースを話し合った。

最後に、「自分がこんなにやってるのに報われないと思うと頭に来ちゃうから、どこかでサボるか、あとは一人でやろうと背負い込まないようにする。ご近所の人を巻き込むとか、あらゆる公的機関やデイサービスの人もそうだし、親戚もそうだし、友達でも、ちょっと時間がありそうな人がいたら、『明日泊まりに来てくれない』と頼んでみるとか、そういう枝を10本くらい持っていると、いざという時に、対処できるようになります。あるいは、電話で聞いてもらうだけでもいいんですよ。友達に、『聞いてくれる? もうひっどいの』と言った時に、『ああ、私も経験ある』と返されると、『なんだ、みんなやってるんだ、自分だけじゃない』と思えて、エネルギーにつながる気がします。とにかく、一人で抱え込まない。うちは、母の性格もあるけれど、人間の脳みそは、認知能力とか記憶能力が抜けていくと、結構、面白い反応をするんですね。どういう動きをしたらそういう発言をするかなと、笑えることがいっぱい転がっているので、そういう笑えることを見つけるのは、(辛い介護を乗り切る)手かもしれないですね」と阿川さんの貴重な介護体験と阿川流心得を披露して、締めくくった。

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第二部は、三井不動産 レッツ資産活用部の杉谷隆さんが、「いまから始める相続対策の秘訣 レッツが考えるオーダーメードプランとは?」と題して、不動産を含む相続におけるポイントについて、基本的な知識や豊富な事例を交えながら解説した。

「レッツ資産活用部は、様々な街づくりや開発事業を行ってきた総合不動産デベロッパーの三井不動産において、個人や企業経営者向けの資産コンサルティングを担っている部門で、1981年の発足以来40年にわたって、お客様の資産の多様な課題解決に向けたコンサルティングを無料で行っている」

と、レッツの概要を説明して、本題に入っていく。

まずは、最近の相続の傾向や相続関係の法改正や相続税の基本事項について解説したうえで、「争族」(揉める相続)を避けるための対策の必要性を説く。

「相続税の最近の動向として、課税対象件数がここ10年間ほぼ右肩上がりで増えており、2019年には被相続人(相続される人=亡くなった人)のうち課税対象になった人の数が全国で11万5千人に及んだこと、相続財産の中で不動産の占める割合はやはり大きいこと、民法や不動産登記法などの最近の改正点、相続税の算出方法や土地の評価方法などを図やグラフを用いて説明。

『争続』の実態として、遺産分割事件の新受件数が毎年概ね右肩上がりで推移しており、審理にかかる時間が2年や3年の長期に及ぶものもある。そのため、相続税の納付期限(相続発生の10カ月後)までに争いの決着がつかない、という事例も頻発している。このような『争族』は避けなければならない。

特に、不動産を含む相続は揉めやすい。不動産には個性があって分けにくく、また、いい物件だけではなく費用ばかりかかるものもある。したがって、不動産が遺産の多くを占めると、揉めやすくなる傾向にある。司法統計によると、争いになった相続の中で、不動産を含むものが実に約8割を占めている。

しかし、分けにくいからといって、不動産を共有することは勧められない。売却の際には全員の同意が必要で、それができなければその不動産は〝塩漬け〟になってしまう可能性が高い。また、裁判になったトラブルのうち77%が、遺産総額5000万円以下の相続で起きており、普通の家庭でも『争族』は起こりうるということができる。」

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では、『争族』を避けるために、いまのうちにできることは何か?

「認知症等で意思能力がなくなってしまうと、法律行為はできなくなり、実質的に資産凍結状態になる。土地の売買、建物の建築、融資を受けたり、遺言や預金の引き出しすらできなくなる。成年後見制度(法定後見)は必要な制度で、これによってできるようになる行為もたくさんあるが、一方で制限される行為も多い。だから、意思能力に問題のないうちに手を打っておく必要がある。例えば、金融機関(銀行・ゆうちょ等)の「代理人カード」を家族が作っておけば、本人の口座から代理人が預金を引き出すことができ、いろいろな支払いに充てられる。」

また、遺言書にも注意しなければならないことがあるという。

「公正証書遺言(公証役場で公証人に作成してもらう遺言)は年々増加しており、2019年で約11万件ある。しかし子供から親に、『遺言を書いて』とはなかなか言い出しにくいし、『うちの子どもたちは仲がいいからそんなもの書かなくて大丈夫』とか、『オレに早く死ねというのか』と言って怒り出す親もいる。ではどうするか。コンサルタントや税理士、弁護士などの第三者から客観的に話してもらうのが案外効くもの。今日のようなセミナー参加に誘うのもいい。また、金融機関の『遺言信託』(金融機関の商品の一つで、遺言の作成や保管、また相続が発生した時には、相続手続や遺産分割などの『遺言執行』を行う)の利用も考えられる。

本人の意思能力がなくなってしまって成年後見人(法定後見人)を付けると、後見人は本人の全財産の管理を、本人が亡くなるまで一生行うことになる。最近は、家族よりも専門職が後見人に選ばれることが多くなっており、2020年では8割強が専門職で、家族の選任は減る傾向にある。専門職の場合は、年間数十万円から百万円超の報酬を支払う必要があり、これも一生続く。さらに、この制度(成年後見制度)は本人の財産を守るのが役目で、相続人の利益のための相続対策などはできない。つまり、相続対策の観点からは、使いにくさのある制度ということができる。

そこで活用したいのが『民事信託(『家族信託』とも呼ばれる)』である。これは、財産を持っている人が『委託者』になり、信頼できる家族である『受託者』に自分の財産(信託財産)を託し、受託者はそこから得られる利益を『受益者』に給付する、という仕組みである。例えば、委託者が信託した賃貸マンションを受託者が管理・運営し、そこから得られる家賃を受益者に渡したり、信託財産を売却して、売却代金を受益者が得る、といった形で活用する。」

この家族信託は、杉谷さんも利用し、母親所有の実家を杉谷さん自身が受託者となって、空き家になっていた実家を売却し、受益者である母親の確定申告も受託者として行ったという。

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「自分の経験からも、早めに家族信託を行うことは、資産を持つ人の、将来の認知症リスクへの備えとして有効と言える。後見制度と違い、特定の財産のみを信託の対象にすることもできるため、信託に入れる財産と入れない財産に分け、財産を色分けすることも可能。

なお、家族信託では、委託者と受益者は同一人であるのが原則(これを『自益信託』という)。そうしないと受益者に贈与税が課税されてしまう。例えば委託者が父親、子供を受益者とし、父親が信託した財産から子どもが受益者として利益を得たら、それは父親から子供への贈与にほかならないため、子供に贈与税が課されることになる。

また、家族信託を遺言の代わりに使うこともできる。遺言では、自分の財産を次に誰に相続させるかは指定できるものの、それ以降は決められないのが通説だが、一方、信託であれば、二代以上の継承も可能である。例えば、子供のいない夫婦の夫が『自分が死んだら妻に、妻が死んだら自分の弟の子どもに渡す』というように受益権を引き継がせることができる(これを『受益者連続型信託』と言う。)

さらに、受託者に支払う報酬は任意で決められる。払っても払わなくてもOKなので、家族のためにやるものという性質から、今までに実施された家族信託では、9割方は受託者報酬ゼロだと言われている。ただし、家族信託の契約も契約行為なので、認知症になってからではそれもできないということには注意が必要である。」


以上のように、相続にまつわる基本知識や『争族』を防ぐための具体的な方法を紹介したうえで、不動産を含む財産を持つ方に対する、三井不動産レッツならではのさまざまな資産活用の実例を紹介し、最後に、「親子の想いのギャップに気付き、それを埋めるためのコミュニケーションが必要であること」と、「先送りしないこと」が重要であることを強調して、第2部の講演が終了した。

「遺産相続」や「争族」が身近にあることを考えるきっかけとなる講演会となった。

|協賛社|三井不動産株式会社



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