【58-社会】【ジェンダーをめぐる二考察】 『ジョーカー』に見る「男らしさ」と階級問題|河野真太郎
見出し画像

【58-社会】【ジェンダーをめぐる二考察】 『ジョーカー』に見る「男らしさ」と階級問題|河野真太郎

文・河野真太郎(専修大学国際コミュニケーション学部教授)

近年盛り上がるフェミニズム

「男らしさ」についての反省は、歴史上つねにフェミニズムへの応答という形で行われてきたと言っていいでしょう。日本では1970年代に「メンズリブ」(メンズ・リベレーション、男性解放運動)という形でそれが興り、学問的には男性学、そして男性性研究が1980年代から90年代に興りました。これは同時代のウーマンリブもしくは第2波フェミニズムが女性の差別を問題とし、「ジェンダー」と呼ばれる、社会的な性役割とそれにともなう「女らしさ」の強制に疑問を突きつけたのに応答したものでした。「女らしさ」が女性差別的な社会構造の維持のためにつくりだされたものならば、「男らしさ」もまたそうであり、男性たちが自らの「男らしさの鎧」を脱ぎ捨てることは、平等な社会を生み出すために必要だと考えられたのです。

だとすれば、現在と今後の「男らしさ」も、それがどのようなフェミニズムに応答するものなのか、という観点からまずは考えられるでしょう。

フェミニズムは近年盛り上がりを見せています。# MeToo 運動に代表されるような、職場におけるハラスメントや性暴力を連帯しながら告発する運動です。

# MeToo 運動が私たちの社会を変えてきていることは大いに歓迎すべきことです。ですが、近年のフェミニズムの盛り上がりについては別の見方もあります。それは、その盛り上がりがセレブリティや、フェイスブックのCOOシェリル・サンドバーグのようなグローバル・エリート女性によってメディア上で先導されており、そこに乗れない女性たちがいるのではないか、ということです。

イギリスのメディア学者サラ・バネット=ワイザーは、『エンパワード』でそのようなフェミニズムを「ポピュラー・フェミニズム」と呼びました。メディアで可視性と人気を獲得したフェミニズム。逆に言えば、メディアで可視的になれるようなフェミニズムこそが現在「フェミニズム」として認知され、それ以外のフェミニズムは排除されているかもしれない。

興味深いのはバネット=ワイザーがポピュラー・フェミニズムの対概念として「ポピュラー・ミソジニー」を分析していることでしょう。ミソジニーとは「女性嫌悪」のことであり、女性差別的な社会構造を支える感情として、それ自体は遠い昔から存在してきたものです。ですがポピュラー・ミソジニーは現代特有の感情のあり方です。それはポピュラー・フェミニズムへの悪い意味でのリアクションだと言えるでしょう。現代のミソジニストたちは、フェミニズムが社会において優勢になり、自分たち(男たち)の既得権が奪われていると感じ、フェミニズムに攻撃を加えます。そのような感情から、「政治的公正(ポリティカル・コレクトネス)」に関する議論に強く反応し、基本的にはそれが「行き過ぎた」ものであると主張し、「逆差別」ということを言い出します。

この続きをみるには

この続き: 1,314文字 / 画像1枚
この記事が含まれているマガジンを購入する
ピンチをチャンスに変える力――それが「教養」だ! これ1つで、小論文対策をしたい高校生、レポートに困っている大学生、豊富な知識を身につけたいビジネスマンまで幅広くサポート。教養人に必須のマガジンです。

【12月1日配信スタート】毎日、朝晩2本の記事を配信。2021年の日本、そして世界はどうなる? 「文藝春秋」に各界の叡智が結集。コロナ禍で…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。