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大相撲新風録 明生|佐藤祥子

大相撲新風録_明生

明生(鹿児島県大島郡瀬戸内町出身、立浪部屋、26歳)

世界遺産の島が生んだ期待の新星

世界遺産に登録され、慶びに沸き上がっている鹿児島県の奄美大島。相撲の盛んなこの離島で、のびのびと生まれ育ったのが明生だ。本名は川畑明生。幼い頃から地元の相撲クラブに通い、「メイセイ、メイセイ!」と可愛がられていたことから、四股名をそのまま「明生」としたという。先の七月場所後、横綱に昇進した照ノ富士とは同期生で、いまどき貴重な中学卒の“叩き上げ”力士でもある。

明生が力士を志した2011年3月、当時の大相撲界は激震の中にあった。俗に言う“八百長メール問題”が発覚し、三月場所開催を断念していたのだ。それでも未来の横綱を夢見て、はるばる上京した15歳の明生は、新弟子検査を受検し、次の5月技量審査場所で初土俵を踏んだのだった。

以来、コツコツと番付を上げて18年7月には新入幕を果たす。左腕のケガで十両に2度陥落したものの、その稽古熱心さには定評があり、スピード感あふれる四つ相撲を研いてきた。今年三月場所では大関正代、貴景勝を破って初の敢闘賞を受賞する。「三賞の賞金で、父の欲しがっていた釣り船を買ってあげたい」と木訥な笑顔を見せる孝行息子でもあるのだ。

180センチ151キロの体は、けして恵まれた体とは言えないが、7月の名古屋場所では新三役の小結として土俵に上がり、「ずっと目標にしていた」という師匠立浪親方(元小結旭豊)の番付に追い付いた。奄美大島出身では初の三役力士となり、地元では明生を応援する大きな横断幕が、そこかしこに掲げられていたという。初日には進退を賭けて臨んでいた横綱白鵬に挑み、がっぷり四つに組んで土俵際でもつれる大熱戦を見せてくれた。千秋楽には8勝7敗と勝ち越して三役の座を守り、来たる九月場所には、さらなる期待が寄せられている。

元横綱朝青龍の甥っ子として注目を浴びる豊昇龍と同部屋で、コロナ禍で出稽古が禁止されているなか、互いに切磋琢磨する日々を送っている。ちなみに苦手な食べ物は果物だというが、唯一、地元の名産である「パッションフルーツだけは食べられるんです」と笑う明生。

世界遺産となった故郷をさらに沸かせ、その名を轟かせてゆく“新星”だ。

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