分断と対立の時代の政治入門

れいわ新選組の支持者を分析して見えるもの / 三浦瑠麗

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※本連載は第14回です。最初から読む方はこちら。

 前回は、現状に対して強い不満と変革期待を抱えている層が、年長世代、とりわけ高齢者に多いという話をしました。けれども、日本がいまあるかたちになったのも年長世代の投票行動の結果ではないでしょうか。

 実は、日本社会において格差が注目されるようになった後も、「自分で何とかする社会」を支持しているのは年長世代です。下の表が示しているように、自助努力はいったいに日本社会では強く支持される傾向にあります。7割以上が国の制度に頼る前にまずは自助努力が大事だと答えているからです。

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 (%)

 そして、この回答を年代別にみると、自助努力を重視する割合は70歳以上だと8割を超えるのに対して、18-19歳では6割を切ります。一般的に、ベースの社会福祉制度を整えたうえで、そこから先は「自己責任」という立場をとるのは日本社会に広く浸透している価値観だと思います。このような価値観が年長世代ほど顕著であることをみると、彼らが経済政策思想の大転換を企図しているとは考えにくいのです。

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 同様に、今の日本社会をどれだけ「フェア」であると認識しているかについても世代ごとに認識は異なります。努力すれば報われる社会だと考えるかどうかは、年代によって開きがあるのです。日本社会をフェアだと思うか否かは党派性によっても大きな違いが出るのですが、こちらの因果関係については逆方向である可能性がありますので、いまは考えに入れません(政権を支持しているかどうかが、現在の日本社会を肯定的に捉えるかどうかの差を生んでしまうため)。

 年代だけで見た時に、これだけの差が出るというのは示唆的です。年長世代は、自分の頑張りに応じて所得があがってきたという経験に基づき、世代間による機会格差や経済格差を意識しづらい傾向にあるのかもしれません。

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 日本社会においては強い閉塞感が漂っていることは確かです。先進各国では、こうした閉塞感が一部の政治家や政党への支持に直結することで政治変動が起きやすくなっています。日本においても、そのような事態は今後起きうるのでしょうか。

 政治変動を呼び起こす一つの方向性は、自国の伝統文化の保護や民族主義などに訴えかけることで、排外的な気分を利用する右派ポピュリズムの道であり、もう一つの方向性は、反資本主義的な気分や経済的なポピュリズムを通じて支持を獲得する左派ポピュリズムの道です。

 現状を見る限り、右派ポピュリズムは十分自民党勢力の中に吸収されており、既得権打破などの改革保守的気分は日本維新の会へと向かっています。NHKから国民を守る党は、右派ポピュリズムが刺さりやすい層を取りに行った気配が窺えますが、ネットとの親和性や改革保守的気分は見て取れるものの、有権者の動向についてはそこまで明確な解釈はできません。

 もう一方の極である左派ポピュリズムに関しては、2019年の参院選の比例代表で2議席を獲得した新党、れいわ新選組を例に、いったいどのような層が応援しているのかを見てみることにしましょう。

 れいわ新選組が2019年の参院選で注目された一番の理由は、主張がはっきりしていることでした。例えば、消費税については、増税反対にとどまらず、「廃止」を主張する。また、原発については「ゼロ」を打ち出すなどして、いずれも生活者が実感しやすい問題に焦点を当てました。

 れいわ投票者の学歴は他とさほど変わりませんが、収入帯を見ると、個人の年収で100万円以下と答えた人が4割強、300万円以下の人が7割弱を占めました。世帯収入を見ると、ごく低所得の家庭(世帯年収300万円以下)とアッパーミドル家庭(世帯年収700万~1000万円)の2種類にそれぞれ3割弱の人が集中しています。

 このうちアッパーミドル家庭の投票者は、選挙区では共産党に投票する傾向がありました。すなわち、アッパーミドル家庭の回答者は投票先の政党を政策にまつわる思想やイデオロギーで選んでおり、より急進的と思われたれいわ新選組に比例区で票を投じたのではないかと思われます。

 これに対し、比例でれいわに投票した低所得家庭の選挙区での投票先はばらけています。目立つ投票先は立憲民主、国民民主ですが、共産・N国・自民に入れている人もいました。全般的に思想傾向としては左寄りですが、単純に左派とも言い切れないのは、自民党やN国にも入れるという投票行動が一部に見られるからです。彼らに関しては、安全保障に対する価値観や社会政策での価値観といったイデオロギーよりも、政党がとった新規性のあるスタイルが支持された可能性があります。

 れいわ投票者の特徴は経済ポピュリズム寄りの価値観を持っていることであり、社会政策や外交安保政策で目立った極端なリベラル性があるとまでは言えません。ただし、れいわ投票者の価値観はほかのところに大きな特徴があります。れいわ投票者のうち、7割以上が変革を切望し、8割が強いリーダーを望み、9割以上が日本は間違った方向に行っていると回答しています。これは、日本人全体の平均と比べても高い数字であるといえます。

 まとめると、れいわ支持者の外交安保政策での護憲左派的価値観は明白ですが、それが支持者の価値観の核ではなかったということがいえます。むしろ顕著な傾向としては、現状否定のエネルギーの強さ、既得権打破やそのために強いリーダーを待望する気持ちが強いという特徴があります。選挙区での投票行動を見ると、れいわ新選組は2019年参院選では主に立憲民主党と共産党から票を奪ったと考えられます。その原動力は、政治、メディア、エリート社会全般に対する不信感とエスタブリッシュメント批判であり、経済ポピュリズム傾向の価値観でした。

 実は、左派ポピュリズムが旺盛な活動を繰り広げている米欧でも、左派ポピュリズムの高まりに呼応して右派ポピュリズムが勢力を伸長するケースが目立ちます。なぜ右派ポピュリズムの方が選択されるかと言えば、おそらく人数の多い中産階級の動向がカギを握っているからでしょう。極端な分配強化を訴える勢力が出てくると、それに対抗して、保守の側も分配強化の方向に軌道修正を試みるからであり、また中産階級が彼らの利益を脅かすような極端な分配を望まないからです。

 日本の有権者のうち、現状否定に基づく強い不満を持ちやすいのは年長世代ですが、その年長世代が日本社会に長らく定着してきた自助努力などの価値観を超えて、極端に大きな政府、自分の属する経済階層の暮らしやすさを超えた分配強化を望むとは少々考えにくい、ということがお分かりいただけたでしょうか。

 残念なのは、現在の日本には安定は存在するが、与党へ対する改革に向けた圧力が介在しにくいことです。現状に不満を持つのならば、今こそ政策の中身を議論すべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

★次週に続く。

■三浦瑠麗(みうら・るり)
1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、現在は山猫総合研究所代表。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』(新潮社)などがある。
※本連載は、毎週月曜日に配信します。


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