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【20-政治】安倍総理最後の「負の遺産」迷走するミサイル防衛|潮匡人

文・潮匡人(軍事評論家)

杜撰な談話

令和2年9月11日、安倍晋三総理(当時)による「内閣総理大臣の談話」が公表された。ただ、閣議決定を経ない限り、法的拘束力はなく、退陣5日前では政治的な意義も乏しい。なにより語られた内容が杜撰きわまる。

冒頭「私が内閣総理大臣の任に就いて7年8ヶ月、我が国の安全保障政策に大きな進展がありました」と実績を誇りつつ「北朝鮮は(中略)核兵器の小型化・弾頭化も実現しており、これらを弾道ミサイルに搭載して、我が国を攻撃する能力を既に保有しているとみられています」と明言した(傍点部筆者)。

平成27年版「防衛白書」は、「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できない」と記述していたが、翌年、「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」と変わり、その翌年、「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる」と、「も」を「が」へ一字修正した(同前)。翌年版も同じ表現を踏襲したが、同年末の「防衛計画の大綱」で「核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる」と踏み込んだ(同前)。安倍談話はこの認識を踏襲している。

改めて振り返るまでもなく、以上の間も安倍内閣が続いていた。なるほど安倍政権下では「安全保障政策に大きな進展」もあったが、同時に、北朝鮮の核ミサイル技術にも「大きな進展」があった。そういうことに他ならない。では、どう対処すべきか。安倍談話は、こう続く。

「このような厳しい状況を踏まえ、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、何をなすべきか。やるべきことをしっかりやっていく必要があります。まず、イージス・アショアの配備プロセスの停止については、その経緯を確認し、既に公表したところです。その上で、その代替として取り得る方策については、検討を進めているところであり、弾道ミサイル等の脅威から、我が国を防衛しうる迎撃能力を確保していくこととしています」

本末転倒な代替案

だが、令和2年秋現在、代替策は正式決定されていない。報道によると、「ミサイル防衛に特化した新たな護衛艦の建造を軸に検討を進めている」という。もしそうなら、本末転倒ではないだろうか。

そもそも「北朝鮮は、発射台付き車両(TEL)による実戦的な発射能力を向上させ、また、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を開発するなど、発射兆候を早期に把握することが困難」(令和2年版防衛白書)だから、アショアの配備が決まった。「アショア2基の導入により、わが国全域を24時間・365日、長期にわたり切れ目なく防護することが可能となり、隊員の負担も大きく軽減され」、「練度を維持するための訓練、乗組員の交代を十分に行うことが可能」(同前)となる。

本来なら当たり前だが、「新たな護衛艦」を建造しても「隊員の負担」は軽減されない。逆に負担が増す。「練度を維持するための訓練」や「乗組員の交代」も十分には行えない。時事通信記事を借りよう。

《運用に当たっては展開海域が気象や海の状況に左右される上、一定期間ごとに要員交代や補給、修繕のための帰港も必要となる。陸上イージス導入の決定打となった「24時間365日の常時継続監視」が困難との課題も残る》(9月4日配信)

やはり本末転倒ではないか。

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