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「FB『リブラ』がもたらすもの」金融政策が効かない――リブラは国民の信認を得られるか

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは【FB『リブラ』がもたらすもの】です。
★対論を読む

文・浅川雅嗣(内閣官房参与・財務省顧問)

 FSB(金融安定理事会)の定義によれば、暗号資産とは、主として暗号技術及び分散台帳技術あるいは類似の技術にその価値の一部が依存する、私的な資産とされている。ちなみに、「仮想通貨」という呼び方も一般に流布しているが、実はG20では、この呼称は使用していない。なぜなら、既存の「仮想通貨」は、実際には専ら投機の対象にすぎず、本来の通貨が有するとされる3つの機能、すなわち価値の尺度、交換手段、価値の保蔵機能を十分に果たしていないというのがその理由である。

 さて、2019年6月18日に、フェイスブックよりリブラに関する白書(ホワイトペーパー)が公表された。それによれば、スイスにリブラ協会という管理者が置かれ、リブラのユーザーはリブラ協会が認定した販売業者にドル、円等の法定通貨を払い込むことによってリブラを入手する。販売会社は、その法定通貨をリブラ協会に持ち込み、リブラを発行してもらう。リブラ協会は、払い込まれた法定通貨を裏付け資産、リザーブとして銀行預金や短期国債で運用する。その結果得られる収益は、金利等の形でユーザーには還元せず、協会の運営費用等に充当するとされている。なお、リブラ協会は払い込まれた法定通貨に見合う以上のリブラを発行しないとしていることから、自ら信用創造を行うことはない。通貨制度でいうなら、保有する外貨資産の範囲内でしか自国通貨を発行せず、自らの金融政策を放棄するカレンシーボード制(固定相場制の1つ)に類似しているともいえる。

 ユーザー間の取引ではブロックチェーンを用いてリブラが電子的に移転されることから、少なくともFSBの定義上の暗号資産、あるいはいわゆる「仮想通貨」の1つに該当する。実際、彼らの白書によれば、リブラはブロックチェーンを活用することにより、国内、国際の送金にかかるコスト、時間を大きく引き下げ、多くの人が金融サービスや安価な資本を利用できるようになることで、金融包摂の推進に資するとしている。フェイスブックの利用者はおよそ27億人に上るといわれ、その数はけた外れに多い。ちなみに、世界最大のフェイスブックユーザーを抱えているのは、インドである。

 他方、リブラにはこれまでの暗号資産と決定的に違う点がある。すなわち、①法定通貨という裏付け資産があること、そして②中央管理者(リブラ協会)が存在することの2点である。いわゆる「ステーブルコイン(価格が安定した暗号資産)」の一種といえる。

 裏付け資産があり、かつそれが主要通貨のバスケットであることから、少なくともこれまでの暗号資産に比べて価格変動は相対的に安定的であると思われる。したがって、リブラは投機手段というよりは、むしろ決済手段として広く使われうることが予想される。

 そうであるならば、リブラに関して考えられる種々のリスクに対し、当局が規制を含めその在り方を真剣に検討せざるを得ないのも当然といえよう。さらにいえば、仮に今回リブラが頓挫したとしても、他の主体により同様の取組みがなされる可能性も否定できない。

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