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安倍首相主催の「桜を見る会」と堕ちた官僚たち。問題点はここだ!

「普通に汚職ですよ」ある官僚は言い切った。たかが花見と侮るなかれ。この問題は、ここまで緩んだ長期政権と総理の周りにいる官僚たちの成れの果ての姿である。/森功(ノンフィクション作家)

安倍政権から招待客数が膨れ上がった

「観光バスを連ねて馳せ参じた大勢の地元後援者」や「ホテルニューオータニ前夜祭の有権者買収疑惑」。「招待者名簿という公文書の廃棄」から「年々肥大化する行事支出」。さらには「首相夫人とデリバリー業者との蜜月」や「紛れ込んだ反社会勢力との交友」……。

 内閣総理大臣主催の桜を見る会にまつわる醜聞が、年を越してなおとどまるところを知らない。森友加計問題をはじめ、防衛省や厚労省の隠蔽・改ざん問題でさらけ出してきた安倍晋三政権の見苦しさが、極まった感すらある。

 たかが花見と侮るなかれ。シンプルなだけに問題がよりいっそう伝わりやすい。野党は攻める手を広げ過ぎて問題の焦点が定まらない、というまさにピントの外れたマスコミの指摘もあるが、むしろここまで緩んだ長期政権の成れの果てに見える。

「公職選挙法や政治資金規正法違反の疑いがあるという前に、17台もバスを仕立てて税金で政治活動をする。普通の感覚で見て、汚職です。総理大臣という職を汚している」

 政府のある高級官僚に感想を求めると、そう切って捨てた。大きな焦点の1つが膨れ上がった招待者の数である。

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2019年の桜を見る会

 所管官庁である内閣官房と内閣府が作成した2019年1月25日付の〈「桜を見る会」開催要領〉によれば、4月13日開催の〈招待範囲〉は、皇族や元皇族、各国大使、国務大臣、各省庁の事務次官および局長等の一部、都道府県知事および議会の議長等の一部、その他各界の代表者等となっている。人数は〈計約1万人〉だ。しかし集まったのは1万8000人を超える。桜を見る会に関係する別のある官僚は、こう指摘した。

「1万8000人のうち1万人はほぼ毎年人数が決まっています。各省庁から定年を前にした部長級以上の幹部職員を数人ずつ選び、皇族枠や大使枠も同じように、招待人数に変化がありません。したがって問題はそれ以外の8000人。そこが総理推薦など従来にない別枠です」

 与党は例によって民主党時代の首相も後援者を招待してきた、と議論をすり替えようとするが、ここまで無節操に招待客が膨らんだのは、安倍政権になってからだ。新宿御苑の一角に2万人近い人数が集まると、混雑ぶりは尋常ではない。実際に2019年の桜を見る会に参加した招待客の1人に聞いてみた。

「8時半からの開門だったので、9時ぐらいに到着すると、もうすごい行列でした。そこにいる人は内閣総理大臣から招待状が届いているので、みな浮かれているような感じ。案内状には『手荷物検査がありますので、所持品はなるべく少なめにしてください。場合によってはボディチェックもあります』と書かれている。だから入場の管理はさぞかし厳重だと想像していたら、拍子抜けしました。内閣府の職員が10人くらい受付に並んでいて、招待状を渡すと、ビニール袋に入った枡をくれるだけ。それで酒を飲むわけですが、ボディチェックはおろか、持ち物検査もない。もの凄い数の人がいましたけど、時間がかからず簡単に会場に入れました」

園遊会と並ぶ「桜を見る会」

 まさに1強の権勢を見せつけるかのように、地元山口県の後援者たちが新宿御苑に大型バスで乗り付ける。過去40数年、せいぜい1万人だった参加者が、第2次安倍政権の発足した明くる2013年には1万2000人、翌14年には1万4000人、16年1万6000人、そして前回19年が1万8000人、と文字どおり右肩上がりに増え続けてきた。

 封筒の裏面に「内閣総理大臣安倍晋三」と書かれた案内状が、「あべ事務所」から地元の支援者に送られていたケースも少なくない。その封筒を受け取った後援者が申込書を別の後援者にファックスし、それをコピーして申し込んだ者までいたという。こうなると、参加者が増えるのはあたり前である。

 野党の議員たちは、そこに首相本人の招待した客が相当いるはずだ、と追及してきた。すると、首相もいつものようにはぐらかす。騒ぎになった当初の11月8日の参議院予算委員会で、こう答弁した。

「招待者については、内閣官房および内閣府において最終的に取りまとめをしているものと承知をしております。私は関与していないわけであります」

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追及はまだ続く

 表向き桜を見る会では、内閣官房と内閣府が招待客の選定をおこない、一括して招待状を発送することになっている。それは、公の行事をおこなう政府として招待客の氏素性を把握し、不審者が紛れ込んでいないか、管理する必要があるからにほかならない。

 桜を見る会は、公式行事と呼ばず公的行事と称される。その違いは、法律で細かい形式を定めていないからだろうが、税金を使っておこなうのは同じだ。明治時代、天皇が主催した皇室外交のための観桜会を前身としている。紛れもなく伝統ある公の行事である。それが戦後、皇室行事である赤坂御苑の園遊会と総理大臣主催の新宿御苑の桜を見る会に分かれ、別々におこなわれるようになった。

内閣府の関与は小さい

 ことが発覚すると、安倍政権と入魂(じつこん)の元大阪府知事の橋下徹は露払いのように「園遊会があるのだから、桜を見る会は廃止すべきだ」と威勢よく語り、首相もすぐさま2020年の中止を決めた。だが、明治時代に始まった皇室行事とは別に、行政府の長として各界の功労者を慰労し、懇親を深める意義はある。行事の廃止論があってもいいが、問題はそれがあまりに杜撰に運営されていることにある。

 さすがにここまで招待客が膨れ上がると、首相周辺も誤魔化しきれない。あげく当人のみならず昭恵夫人の推薦まで明るみに出て、前言を翻して関与を認めざるを得なくなっていった。

 日本共産党議員の田村智子の示した内閣府の資料によれば、オーナー商法で行政処分されたジャパンライフ社長が招待された年の前年の首相招待枠は、3400人だそうだ(14年)。19年の招待枠についても、内閣府は首相推薦が1000人、副総理・官房長官・官房副長官等で1000人と半ば認めた。

 それでいてなお、安倍政権になって増えた8000人の詳細については、データがないので不明だと言い張る。そもそも桜を見る会を所管してきた内閣府は、なぜここまで放置してきたのだろうか。

 改めて念を押すまでもないが、内閣総理大臣は文字どおり各省庁の国務大臣が集まる内閣のトップに位置付けられ、首相の直轄領として内閣官房という組織がある。内閣官房長官が政権内でナンバー2と呼ばれるのはそのためであり、内閣官房に官房副長官や危機管理監、国家安全保障局長、首相補佐官といった重鎮を配している。

 度重なる省庁再編により、ややわかりづらくなっているが、内閣府は旧総理府から改組された。総理大臣は内閣府のトップでもあり、内閣府は内閣官房の事務的な機能を担う。そうして桜を見る会の事務局が内閣府に置かれ、招待客を一括管理している建前になっている。

 首相はそれを逆手にとり、あたかも招待者は内閣府が選定するので自らはいっさいかかわっていないかのように答弁した。だが、その内閣府が認めているだけでも首相の選定枠は1000人に上る。むしろ内閣府の事務方はそこにタッチしていない。

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 各省庁の参加者については、それぞれ大臣官房の人事課や総務課が人選し、内閣府はリストを受け取り、一括管理して名簿を作成するだけだ。与党議員の推薦枠についても同様で、まして首相や官房長官などの推薦招待の選定については、アンタッチャブルである。

 つまるところ、内閣府は各省庁や与党、首相から推薦者のリストを受け取り、行政文書として名簿などをとりまとめるだけの役割でしかない。招待客の氏素性を調べ、会の運営費用を精査することもしないからこそ、招待客の中にいかがわしいオーナー商法の経営者が紛れ込んでも気づかないのである。

首相秘書官が接待の愚

 内閣府は会の予算についても、官邸にいわれるがままに計上している感覚なのだという。税金を使った首相主催の行事なのに、なぜ行政のチェックが入らないのかといえば、まさか総理大臣が花見の会をここまで大っぴらに政治利用すると想定していなかったからだそうだ。もっとも、桜を見る会に関係する先の官僚はこうも指摘した。

「1万8000人の招待者のうち、公務員や駐日大使館関係者など、いつもの1万人はそれぞれの官庁が把握しています。データも残っているので復元できます。しかし、残り8000人については内閣府にしかデータがありません。だから内閣府が消去していると言い張れば、誰が誰を招いたか、永遠にわからなくなる」

 桜を見る会では、首相が通る花道に囲いがあり、そこにVIP客が群がる。選挙区の後援者をサポートし、会の運営に目を光らせるのは、内閣府の職員ではなく、秘書官や補佐官たちだ。総理の分身と呼ばれる政務秘書官の今井尚哉はむろん、事務秘書官の佐伯耕三が甲斐甲斐しくVIP客の接待をしてきた。19年の会でも、けっしてスリムとはいえないその身体で、招待客の間を飛びまわる佐伯の姿が際立っていた。

 経産省出身の佐伯は、先輩官僚である今井に引き立てられた。戦後70年談話や対ロ外交などにおける首相のスピーチライターとして名を揚げたとされる。17年7月、42歳という史上最年少の事務担当秘書官として抜擢され、モリカケ国会では、野党に野次を飛ばす首相秘書官、と顰蹙を買う。

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 半面、まさにそうした軽いノリで首相と意気投合したのかもしれない。先頃、筆頭秘書官兼補佐官に昇格した今井を飛び越え、いまや総理に直言できる秘書官として、政府内で恐れられている。先の政府の高級官僚は彼らを酷評する。

「今度の桜の会にしても、彼ら“官邸官僚”の責任が大きいと思います。少なくとも秘書官たちは、地元下関の支援者を大勢呼んでいることを承知の上で世話をしているわけです。さすがに彼らがバスを仕立てて地元から呼び寄せるよう計画したとは思いませんが、本来、総理や事務所がここまで暴走したら止めなければならない。しかし、彼らの頭にはそんな問題意識がまったくありません」

 本来、軌道修正しなければならない官僚が首相と同化し、暴走している。それが安倍政権の特徴でもある。

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