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【全文公開】ニッポンにかかる人々ありき 手嶋龍一さんの「わたしのベスト3」

外交ジャーナリストの手嶋龍一さんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。

手嶋龍一さんが今月買った10冊

 日韓が領有を争う竹島の上空を中ロの両軍機が雁行して飛んだ――。東アジアの情勢は年ごとに烈しさを増し、令和の日本を取り巻く地政学は姿を変えつつある。明治の日本も列強の脅威に晒されながら、国づくりを強いられた。熊本城下に生まれた陸軍士官、石光真清は、忍び寄る帝政ロシアの影を敏感に感じ取り、将来の栄達を捨て「露探」となり、アムール河畔に身を潜めた。『城下の人』『曠野の花』『望郷の歌』『誰のために』の4部作は、大陸を舞台にした「密偵秘録」である。生き残りを賭ける国家、その最後の砦は、若者の志を措いて他にないことをいまに伝える書だ。

『戦艦大和ノ最期』は、学徒出身の士官、吉田満が重油に塗れた海から生還し、ほぼ1日にして文語体で書きあげた「大和」の蓋棺録だ。

「『大和』轟沈シテ巨体四裂ス 水深四百三十米 今ナオ埋没スル三千ノ骸 彼ラ終焉ノ胸中果シテ如何」

 日本が誇った超弩級戦艦の壮烈な最期を伝えるドキュメントは、敗れゆく祖国を葬送する叙事詩となった。青年士官を率いた臼淵大尉に「敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ」と語らせ、日本再生への餞(はなむけ)の言葉としている。

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★2020年1月号(12月配信)記事の目次はこちら

『人とこの世界』は、特攻艇「震洋」の指揮官だった作家、暗い時代に抗って海外を漂泊した詩人、さらには戦時下に秘境・大興安嶺を踏査した霊長類学者ら、当代を代表する12人と相対した開高健の渾身のルポルタージュ。なかでも白眉は、特攻艇の出撃基地となった奄美群島で暮らす島尾敏雄を訪ねた「流亡と籠城」の1篇だろう。機上から島影を俯瞰して、獰猛なハブに重ね合わせ、「彼は孤独な山の鎌である」と喝破し、こころに闇を抱える作家の内奥に分け入っていく。息を呑むような斬新な構成だ。

 一連の作品から浮かびあがってくるのは、抗しきれないほどの魅力に溢れた人間群像。ニッポンにかかる人々ありき。令和に生きる若者に自信をもって贈る傑作群だ。



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