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荒磯親方が語る井上尚弥の強さ 「無敗のまま、世界最強になる男」

2019年1月に土俵を去り、現在は後進の指導に加え、大学院で研究に励む荒磯親方(元横綱稀勢の里)。そんな彼が目を輝かせて語るのは、ボクシング世界王者の井上尚弥(27)のファイティングスタイルだ。

日本ボクシング史上最強と評される井上は、高校生初のアマ七冠というキャリアを引っ提げて2012年にプロデビュー。世界最速(当時)となる8戦目で2階級制覇という快挙を達成すると、18年には3階級制覇。現在まで20戦負けなし17KOという戦績には海外からも熱い視線が送られており、米ボクシング専門誌「ザ・リング」が全階級の選手を格付けする「パウンド・フォー・パウンド」で、井上は世界2位をキープしている(11月現在)。

荒磯親方(横綱稀勢の里)共同

荒磯親方(第72代横綱 稀勢の里)

ジャブの「インテリジェンス」

この春から私は早稲田大学大学院でスポーツマーケティングを学び、他の競技を見ては「相撲に生かせることはないだろうか?」と考える日々が続いています。そのなかで圧倒的な存在感を放っているのが、ボクシングの井上尚弥選手です。彼は21年のみならず、日本のスポーツ界を大きく変える可能性を秘めている人物ではないでしょうか。

なにより、ボクシングスタイルが魅力的です。20年10月31日、ジェイソン・モロニーに7ラウンドKO勝ちを収めたように、相手を一発で仕留めるパワーがある。井上選手の試合を見ていてスリリングなのは、「いつ一発が来るか」という期待感があるからでしょう。

しかし、私が興味深く見ているのは、本来は相手との間合いを測るために使われるリードジャブの巧みさです。私は、井上選手のジャブに「インテリジェンス」を見るのです。

人間は本来、人を殴る時には体をねじり、それによって生じた力を腕に伝えて殴ります。それが相手にダメージを与える際の人間の本能だからです。ところが井上選手の繰り出すジャブは、相手に接近しているところから、タメを作らずにいきなり出る。前触れが見られないのです。タメを作らずにいきなりパンチを出すのは、人間の本能に反した動きであり、知性か、あるいは技術によってコントロールしていなければ出せないパンチだと私は思います。

気になるのは、こうした動きが自然とできているのか、それとも学習によって身につけたのか、ということです。子どもの頃からボクシングに慣れ親しんだこともあるでしょうが、もしもナチュラルに武器を身につけていたとしたら、学習効果により、これからさらに強くなる可能性があるのではないでしょうか。

なぜ、これほどまでに私がボクシング好きかというと、父がアマチュアボクサーだったこともあり、家にサンドバッグが吊るされていたんです。子どもの頃はよく叩いていましたし、父からは「身長が180センチなければ、ヘビー級のボクサーにするつもりだったんだが……」と言われたことがあります。どちらが良かったか、私には分かりません(笑)。

井上尚弥2社

井上選手(プロボクサー)

サンドバッグを稽古に

こうした環境に育ったこともあり、私もボクシングが好きになり、辰𠮷𠀋一郎対薬師寺保栄の一戦に胸を躍らせ、長谷川穂積の強さに度肝を抜かれました。後楽園ホールで観戦することもたびたびありますし、私がたいへんお世話になった鳴戸親方(元横綱隆の里)もボクシング好きで、マニー・パッキャオの試合を興奮しながら語っていたことも懐かしく思い出されます。

相撲とボクシング、同じ対人競技でありながら、一見、共通項は少ないように思えます。ところが、私の相撲人生を振り返ってみると、サンドバッグを叩き、独特のリズムを体に覚えさせることが出来たおかげで、相撲の突き押しのリズムが自然と身についたように思います。

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