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日本語探偵【さ】『三国』第8版は相談相手になる辞書 飯間浩明

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。

【さ】『三国』第8版は相談相手になる辞書

『三省堂国語辞典』(三国|《さんこく》)の第8版がこの12月に刊行されます。『三国』という辞書は1960年の初版刊行以来、現代語を重視し、今の日本語を鏡のように映そうとしてきました。かく言う私も編集委員の末席に連なっています。

同じ版元から出ている『新明解国語辞典』とよく間違われます。『新明解』は説明の文章が詳しく、時に皮肉が交じるところが多くのファンに愛されています。一方の『三国』は、説明のことばは短くやさしく書いてあります。

『三国』の簡潔平易な説明は、実用上はとても便利です。とはいえ、辞書の特色、キャラとしてアピールするには少々弱いかもしれない。自分たちの辞書の魅力を人に説明するとき、私は少なからず苦労を感じていました。

でも、辞書のキャラというものは、改訂を繰り返すうち、次第に変容し、洗練されていきます。『三国』第8版は、リーフレットに〈ウェブ検索だけでは得られない、価値ある情報が満載!〉とあるように、ネットの曖昧な説を正そうとする姿勢が明確になりました。

たとえば、ネットのもっともらしい解説で、「愛敬あいきょうを振りまく」はいいが「愛想あいそを振りまく」は「慣用的には誤用」などと書いてあります。でも、〈番頭は四方八方に愛想をふりまき〉(饗庭篁村あえばこうそん「当世かね草鞋わらじ」1897年)のように、すでに明治時代にはこの言い方があり、「愛敬を振りまく」と歴史的な先後関係に差はありません。

そこで、新しい『三国』の「愛想」の項目ではこう説明しました。

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