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中国の真の姿を見てほしい 薛剣(中国総領事)

「最悪の人権侵害国アメリカ」「中国に内政干渉すべきでない」/薛剣(中華人民共和国駐大阪総領事)、聞き手・安田峰俊(ルポライター)

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薛氏(右)と安田氏(左)

「反中報道が充満」

――総領事館の公式アカウントとは別に、総領事個人として新たにアカウントを開設した理由は?

薛剣 ソーシャルメディアを通じて対外的に情報を発信することは、現代ではごく普通のPR方法でしょう。接受国である日本国民から中国を正確に理解してもらうのが目的です。総領事館のアカウントは中国政府の公的な情報で、私のアカウントは公的見解に沿いつつ、個人のカラーも込めていく考えです。

――発信内容はかなり踏み込んでいますが、北京の外交部から指示があったのですか?

薛剣 いや、必ずしもそうではありません。

――現在、各種調査で日本国民の対中好感度は10%を切っています。

薛剣 もとより日中両国にはしがらみがあります。ただ、日本のメディアが国民感情に与えた影響が大きい。新聞もテレビも反中報道が充満しています。ウェブ空間でも、反中情報ばかり発信されている。こうした環境に置かれた日本の皆さんが、中国について良い感情をもつはずがない。

日本のメディアはあまりに中国知らず。どんどん変化している中国を伝えていません。結果、本当の情報は遮断され、改変されている。日本国民の正確な中国理解が妨げられています。

偏った中国理解は両国のために、また日本自身のためにも決して良いことではない。日本における公正で客観的な対中報道は、中国政府としても、私たち個々の外交官としても望んでいます。いわゆる民意は、突き詰めて言えば「作られるもの」です。悪く作ることもできる反面、いい方向へリードすることも、本来はできるはずだと思います。

冷戦終結後、アメリカ的な考えがあたかも唯一の正解であるかのような風潮が広まり、日本で中国を敬遠する傾向が生まれた。フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』で述べたような、世界はいずれみな米国型民主主義になるんだという考えが広がり、常にアメリカ的な価値観というアメリカ製の色メガネをかけて中国を見て、正確ではない理解をするようになってしまっています。

――その風潮を正したいというのも、ネット活動の理由ですか。

薛剣 はい。日本の皆さんには、偏見や先入観なくありのままの中国を見てほしいところです。

アメリカこそ最悪の人権侵害国

――総領事は8月18日、アフガニスタンで撤退する米軍機にすがりついた現地の亡命希望者が墜落した様子を揶揄するような画像をツイートしています。あの表現に不快感を覚えた日本人も多いはずです。効果的な情報発信だったと思いますか?

薛剣 中国を理解してもらうため、笑顔ばかりを見せるという考えではない。さらに言えば、媚びる外交はしない。中国はこの問題をこう見ている。人々がこういう感情を抱いている。そうした面を、ありのままに伝えることも重要なのです。

――「ありのまま」の中国の感覚では、米軍機から爆弾のかわりに人間が落ちるのは面白いのでしょうか。

薛剣 いや、面白がったわけではありません。アメリカが覇権国家としてどれだけ他国に害を及ぼしているか。その1面をぜひ、日本の皆さんに直視してほしいという思いからです。アメリカの良い面だけではなく、現実にやったことを見てほしい。むしろ、日本にはそうした情報が極端なほど欠如しています。アメリカをバラ色の国のように考え、その価値観で中国を見ている。健全な姿ではないと思います。

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アフガニスタン撤退を揶揄する画像

――日本はアメリカと距離を置き、中国と友好的になるべきですか。

薛剣 いえ、日米同盟そのものについてとやかくいうつもりはありません。それは日本の選択ですから。しかしこの同盟関係が他国、ことに中国に害を及ぼすのであれば別です。日本は日米安保条約を非常に重視していますが、中国は日本の近隣で、中日間に平和友好条約という重要な取り決めがあるのですから。

近年の日本では、アメリカこそ絶対的な存在、中国は二の次であるかのようです。しかし、国際情勢が激しく変動する現在、対米関係さえ良ければ日本は大丈夫だ、中国との関係も乗り切れる、と考えるのは賢明ではない。同盟関係を外交のすべてにしてはなりません。

中日国交正常化、とりわけ中国改革開放以来の数十年間、両国関係が発展するなかで、日本もそのメリットを多く享受してきました。これは中国も日本の支援を得て助かったのと同様否定できない事実です。今後も中国の発展がもたらすメリットはどんどん大きくなるでしょう。むしろ問題は、日本の方々がその事実にありのままに向き合えるかです。勇気と知恵が問われています。

――近年、香港や新疆の問題で欧米諸国の対中圧力が強まっています。

薛剣 所謂人権問題を口実に内政干渉するのは、アメリカなど所謂先進国の常套手段です。その本質は数十年来なんら変わっていません。

香港と新疆に関わる問題は、そもそも人権問題ではありません。中国の国家主権、国家の安全、領土の保全にかかわる重大な政治問題です。むしろ少数民族政策については、中国は世界で一番よくできている国のひとつです。これは私たちが自信を持って言えることです。

アメリカはしばしば所謂人権問題を持ち出しますが、彼らの国内の人権状況は最悪です。彼らが言う「人権」は政治の道具で、覇権を維持するための道具です。アメリカは人権を盛んに言い立てるのに、新疆におけるテロや破壊活動に批判の声を上げたことはありません。香港においても、アメリカの下院議長は街での暴力と破壊活動をきれいな風景と称賛すらしていた。まったくの偽善でありダブルスタンダードです。

売られたケンカは買う

――昨今、中国の外交官の強硬な対米批判が目立ちます。

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