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片山杜秀さんの「今月の必読書」…『白から黄色へ ヨーロッパ人の人種思想から見た「日本人」の発見』ロテム・コーネル

肌の色はいかにして“人間の尺度”になったか

イスラエルの碩学による驚異の日本研究だ。より正確に言えば、西洋が日本人をどうイメージしたか、その変遷史である。微に入り細を穿つ。徹底ぶりに脱帽だ。

まずは書名に注目! 『白から黄色へ』。白人から黄色い日本人へのメッセージなのか。全く違う。歴史を遡れば、日本人は初め西洋に白人として紹介されていたのだ。もちろん名誉白人なんて話ではない。マルコ・ポーロは『東方見聞録』に、ジパングには白い肌の人間が住むと書いている。だからと言って、日本人が中国人やモンゴル人のような黄色人種とは別種と想像されたわけでもない。そもそも黄色人種という観念は、西洋が18世紀に発明したと、本書は説く。決定的役割を果たしたのは近代植物学の発展だ。特にはスウェーデンのリンネである。彼は植物学者として知られるが、そこから進んで森羅万象の分類学を志した。たとえば人間も、植物のように種によって分類できるのではないか。リンネの大著『自然の体系』をきっかけに、そういう考え方が急激に広がった。パラダイムシフトという奴が起きたのだ。

その前の西洋では、言葉や着ているものは違っても、人間は結局みな同じという思想が優越していた。それが、体のサイズや目鼻立ちや生育する風土等によって、本質的に相異なる人種が居るという発想に置き換わった。そこでの最重要指標は、やはりいちばん分かりやすい肌の色。白色人種と黄色人種と黒色人種という絶対的概念が生まれた。植物図鑑を編纂することが、人が人を見る目まで変えたのである。

すると18世紀以前には、肌の色の違いはどう理解されていたのか。少なくとも西洋人は、より白いか、より黒いかという程度の、相対観念でしか考えていなかったようだ。日本語でも、あかは明るい、くろは暗い、あおは淡いに、由来するという。要するに色の説明はグラデーションに尽きていた。それと同じだ。

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