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平松洋子さんの「今月の必読書」…『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』

プラスティック問題の入門書として高い実用性

海洋ごみの削減などを目的として、7月1日からレジ袋が有料化されたが、早々に議論噴出。プラスティックごみのうち2%に満たないレジ袋を有料化する意味があるのか、コロナ禍にあってむしろレジ袋を使用するほうが感染症対策として有効ではないか、等々。後者は、“使い回しするエコバッグを店内に持ち込めば感染リスクが生じる”というのがその理由だ。欧米で上がった声に対して、イギリスの環境団体は「時代に逆行する」と異議を唱えている。

プラスティック問題は、それ自体が自然界で分解されにくい厄介さに留まらない。環境汚染や健康被害の可能性を知れば知るほど、自分の周囲を取り巻くプラスティック製品の夥しさに戦慄することになる。

しかし、本書のスタンスは違う。ひるむな、めげるな、意識改革あるのみ……カナダ人の著者夫婦が「プラスティック・フリー」の旗を振って、読者を励ます。内容はじつに具体的、日常生活に沿う問題点と解決策の提示も細かく、プラスティック問題の入門書としての実用性は高い。

私たちの日常生活はプラスティック製品に包囲されている。プラスティック15種類の特質と危険性が詳細に挙げられるのだが、食品包装や建材、洋服はおろか、医療用チューブや血液バッグは血管を通じてフタル酸エステルが忍び込む危険性があるという。あるいは、紅茶のティーバッグにもプラスティックは含まれ、茶葉といっしょに化学物質が染みだすと指摘。歯ブラシやフロス、メラミンやシリコン製の調理道具、フリースやゴアテックスを始め合成繊維、紙オムツ……いちいち論拠を示しつつ、環境汚染や健康被害の予防の観点から容赦なく断罪してゆく。

これまでよしとしてきた合理性や快適さが、汚染や身体ダメージを招く皮肉。しかし、プラスティック・フリーなんて夢物語だとあきらめる前に、この理不尽を受け止めておきたい。著者は、「使い捨て」の概念はプラスティック製品の普及以降に広まったと指摘するのだが、この合成素材を次々に研究・開発、利用することによって世界が編成されてきた現実は否定のしようがない。

まず解決策としてプラスティック製品を減らし、ガラスや金属製品、ウールや麻、竹、レザー、植物繊維などの代替え品を導入すること。著者夫婦はそのためのオンラインストアを経営するだけあって、実践法のアドバイスは細かい。

訳文の貢献度がきわめて高い一冊だ。実情の違いを補完するコラムや註釈、日本のリサイクル事情の解説も充実しており、日本の現状が俯瞰できる。この7月中旬、政府はプラスティックごみの資源区分を設けて一括回収する方針を固めたと発表したが、さて有効なリサイクルの仕組みは実現できるのか。私たちのプラスティック問題は始まったばかりだ。

(2020年9月号)

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