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たった一言| 北斗晶

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、北斗晶さん(タレント)です。

たった一言

うちの実家は埼玉県で代々続く専業農家。幼い頃からの父の記憶と言えば、農作業に励む姿ばかりです。朝早くに起床し、母と連れ立って7時前には家を出ていく。姉と私と妹、三姉妹の朝ごはんは同居する祖父母が用意してくれていました。80歳を超えた今でも変わらず、せっせと畑仕事に出掛けています。

とても物静かな父。自分の意見を主張することは滅多にありません。私が女子プロレスラーを志した時もそうでした。全日本女子プロレスのオーディションを受けるため、通っていた高校を中退することに決めたのです。家族の前で決意表明したところ、祖父が顔色を変えて猛反対。「何言ってんだ!」と張り飛ばされました。そんな緊急事態を前に、父は私の夢に賛成も反対もせず、黙って話を聞いていました。

1985年にプロレスラーとしてデビュー。1年目は寮生活でしたが、2年目からはオンボロアパートに引っ越し、1人暮らしを送っていました。狭い部屋なので家の中に洗濯機置き場がなく、玄関の外に設置していた。長期間の地方巡業から帰ってきて、洗濯を回そうとすると、中にお米と腐った野菜が入っているんです。父からのお土産でした。東京まで出荷に来たついでに、娘の家に寄ったけれど、本人は留守にしている。当時は携帯もないから、お米と野菜を洗濯機に入れていくしかなかったんですね。しなびた大根を見て、切なかったです。

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