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遂に現金化へ…「徴用工に日本が補償する道理はない」韓国人学者の直言

韓国の徴用工裁判に動きがあった。原告側が差し押さえた日本製鉄の資産が現金化されようとしているのだ。これに異を唱える韓国人学者がいる。成均館大学の李大根名誉教授である。李教授は著書『帰属財産研究』の中で、「日本は朝鮮半島に10兆円を超す資産を残していった」との研究結果を記している。徴用工問題に一石を投じる内容となりそうだ。/聞き手・黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)

協定内容を歪曲している

黒田 75回目の終戦記念日が8月15日にやってきます。李先生の故郷は南部の慶尚南道・陜川ですが、終戦時の様子はいかがでしたか?

 陜川は山奥の農村で、当時、私は6歳でした。戦時中は、村役場が弾丸を作るためといって「真鍮の器を供出せよ」と家々を回り、村人が「これは祭りに使う器だ」と抵抗していた姿を覚えています。解放後、日本から帰国した子供たちは「イチロウ」や「カズオ」など、日本の名前で呼ばれていました。一緒に学校に通っても言葉が通じなくて大変でしたね。40戸ほどの村で日本帰りが5戸ほどあり、うち1戸が日本で稼いできたといって唯一の瓦屋根の金持ちでした。ただ、ほかの家庭はとにかく貧しく、食糧不足に加えコレラが蔓延するなどひどい状況でした。

黒田 先生は大邱商業高校を経てソウル大学を卒業。産業銀行調査部に勤務した後、成均館大学の教授をされ日本の京都大学にも留学されています。朝鮮半島の近代経済構造の発展を主に研究されていますが、日韓双方で話題のベストセラー『反日種族主義』の李栄薫元教授らの拠点である「落星台経済研究所」の初代所長でもあり、韓国の公式歴史観には批判的立場をとってこられた。

 韓日関係を考える上での原風景は、やはり生まれ故郷にあります。韓国では8月15日を「光復節」と呼んでいますが、陜川は田舎だからでしょうか、人々が万歳を叫んだような記憶はありません。私の兄が「日本は追い出され米国がきた」などと喜んでいましたが、むしろ村の大人たちは「韓国人の地主よりも日本人の方が優しく接してくれた」と昔を振り返っていましたね。

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李氏

黒田 ところがそれから75年も経つのに、日韓の歴史問題は混迷を深める一方です。

なかでも最近の懸案は、朝鮮半島出身の労働者を巡るいわゆる徴用工補償問題です。2018年10月、遺族らが新日鐵住金(現・日本製鉄)に対して賠償を求めた裁判で、韓国の大法院(最高裁判所)は原告4人へ1人あたり1億ウォン(約1000万円)を支払うよう命じました。この判決の結果、日本製鉄が持っている韓国の鉄鋼会社POSCO(旧・浦項総合製鉄)との合弁会社の株式などの資産が差し押さえられました。

 あれはとんでもない判決です。そもそも1965年の韓日国交正常化の際の請求権協定により、両国間の請求権は完全かつ最終的に解決しています。協定内容を歪曲していると言われても仕方ありません。

黒田 8月4日には判決を日本製鉄側に通達する「公示期限」を迎え、資産の現金化が可能になりました。8月15日の「光復節」に向け、文在寅政権がまた何か仕掛けてくるのではないかと懸念されています。

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徴用工像前でのデモ

日本が朝鮮に残した52億ドル

黒田 先生の著書『帰属財産研究』を読んであらためて徴用工補償問題を考えさせられました。この本は敗戦時に日本人が朝鮮半島に残した「帰属財産」に関する、初めての総合的な研究書です。昨年秋に頂いたのですが、韓国語で700ページという大作ですから、新型コロナで増えた在宅時間を利用して、やっと読み終えました。刊行は2015年ですが、帰属財産のことをここまで掘り下げて明らかにした研究は、日本でもお目にかかれません。

 「帰属財産」は、終戦後に韓国に進駐し軍政を敷いた米国当局が定めた用語ですが、その後、韓国では反日思想の影響を受け、「敵産」と呼ばれています。終戦時、日本人は政府(総督府)や軍関連など公的な資産だけではなく、民間企業や家屋などの個人資産を含め、莫大な帰属財産を韓国に残したまま帰国させられました。統計資料によると当時の朝鮮半島全体での資産のうち、およそ80〜85%が日本人の資産だったとされています。

黒田 日本製鉄だって朝鮮半島に莫大な資産を残しています。先生の本を読んで、日本製鉄からすれば、「われわれが韓国に置いてきた資産で補償すればいいじゃないか」という考え方もありうるのではないかと感じました。それにPOSCOだって70年代に新日鐵の協力で誕生した企業ですしね。過去の補償問題など韓国側で処理すればいいのであって、なぜ今さら日本に要求するのかおかしいと思うでしょう。

 おっしゃる通りです。いまになって日本企業の財産を差し押さえて、それでもって徴用工に補償するというのは筋が通らない、とする主張は十分に理解できます。終戦後に接収された日本企業は2300社を超え、日本人が朝鮮半島に残した資産総額は米軍当局などの試算では当時の通貨で52億ドルです。工業化が進んでいた北朝鮮に29億ドル、南朝鮮(韓国)は23億ドルという内訳です。

黒田 ソウルで経済専門家の日本人に頼んで、帰属財産の総額をいまの貨幣価値に換算したらいくらになるか調べてもらったところ、インフレなどを勘案すると最低でも1000億ドル(約10兆円)といっていました。計算方法によっては数千億ドル以上にもなるとのことでしたね。

 なにを基準にして物価上昇率を計算するかによっても変わってくるので難しいところですが、日本が莫大な額の帰属財産を残したという事実だけは間違いありません。

韓国急成長を支えた帰属財産

黒田 『帰属財産研究』では、解放後の韓国経済の発展にこれらの帰属財産が大きく寄与したことが指摘されています。

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 韓国は1961年からの朴正熙政権時代、「漢江の奇跡」と呼ばれる高度成長を達成しました。直接的には請求権協定で得た5億ドルによるインフラ投資のおかげもありますが、その下地となったのが日本人が残した帰属財産だったのです。

私は、韓国には2度の「産業革命」があったと考えています。一つはこの「漢江の奇跡」で、これは「第2次産業革命」にあたります。もうひとつの「第1次産業革命」は日本統治時代の1930年代前半から起こりました。鉄道、道路、電力などが整備され、この時期に朝鮮半島は日本の内地より高い経済成長を遂げています。そのほとんどは日本資本による投資の結果です。当然、日本資本で作られた施設は日本人の所有となりましたが、それによって韓国の経済は発展し韓国人も豊かになった。この第1次産業革命があったからこそ「漢江の奇跡」へとつながったのです。

帰属財産のなかでも、とりわけ重要だったのが、電力会社です。終戦時には朝鮮電業と京城電気、南鮮電気という3つの電力会社がありました。朴正熙時代にこの3社を統合させて国営の韓国電力を設立しましたが、これが「漢江の奇跡」を実現させた要因のひとつです。

いま、韓国経済を牽引している財閥も、帰属財産の恩恵を受けて発展しました。たとえば一時、斗山グループの中核企業だった「OBビール」は、日本統治時代に麒麟麦酒が出資した昭和麦酒が前身でした。

黒田 通信大手のSKグループはスマホ王国の韓国で最も身近な企業の1つで、半導体メーカーをも含む大財閥ですが、日本にルーツがありますよね。元は日本統治時代に「鮮満綢緞」と「京都織物」が合併した「鮮京織物」で、その頭文字の「SK」が企業名の由来です。解放後、元従業員の韓国人に払い下げられて韓国企業になりました。

プロ野球球団を持っている大手財閥のハンファ(韓国火薬)・グループも母体は帰属財産だと聞きました。地方都市には、元は日本人の店だったことを売り物にしている老舗のパン屋がありますが、そんな日本人の帰属財産の行方などいまの韓国人はほとんど知らないでしょう。

 帰属財産は韓国経済にとって極めて重要な歴史的事実ですが、これまで地中に埋もれ、忘れ去られてきました。韓国政府や国民は、帰属財産を無視して戦後の経済成長について語ることはできないはずです。経済学者として帰属財産についての正しい歴史を掘り起こし、光を当てなければならない。これが研究を始めた動機です。

日本は韓国を「収奪」したか?

黒田 ただ、韓国では日本統治時代については、すべて日本が奪っていったという「収奪論」が公式史観になっています。帰属財産、つまり日本の投資とその結果が韓国経済を発展させたという、いわゆる「植民地近代化論」に対しては拒否感が強いですよね。

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