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【連載】専門家、コロナを語る。|#1 鈴木基(国立感染症研究所・感染症疫学センター長) 変異ウイルスの何が恐ろしいのか——政治とデータをめぐる葛藤

各地の感染拡大に、新型コロナ「変異ウイルス」の急速な広がりの影響が指摘されている。14日、感染状況について分析している厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(ADB)の会合では、5月の前半には各地で通常ウイルスが「英国型(501Y)」にほぼ置き換わる可能性が明らかになった。

分析を行ったのは、ADBのメンバーでもある国立感染症研究所の鈴木基・感染症疫学センター長。鈴木氏は、こうした各種の分析をもとに政府に対策を助言する政府の新型インフルエンザ等対策推進会議基本的対処方針分科会の構成員も兼任している。

鈴木氏に、「今、何が起こっているのか」について訊いた。/文・広野真嗣(ノンフィクション作家)

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鈴木氏

続く「大阪危機」

——ADBに鈴木さんが提出された分析によれば、1人が何人にうつすかを示す実効再生産数(3月28日時点)について、第4波の感染の中心と見られる大阪、京都、兵庫では1.34という数値だった。全国の1.18、首都圏の1.05と比べても高い。

全国的に感染拡大が続いていて、実効再生産数が高いまま推移しています。グラフを見てもらうとわかりますが、大阪府や兵庫県などで2度目の緊急事態宣言が解除された2月末から数値は急速に上がっていき、3月20日前後のピーク時には1.5になりました。宣言前の年末年始でさえその数値は1.25前後でしたから、伝播のスピードは速い。危機的状況だと言えます。

図-1

図-1、第30回ADB、鈴木基氏提出資料「全国の実効再生産数(推定感染日毎)[4月13日作成]」

実効再生産数がピークから下がったのはなぜか。新規症例数が急激に増えると、市民の皆さんの間で『このままではまずい』という意識が高まって自主的な抑制につながるというパターンはこれまでの緊急事態宣言前にも見られました。

今回は自粛疲れもあるのか、増加に対してそれほど反応しなくなっている側面がある一方、「新規変異ウイルス(501Y)」に対する警戒感もあり、それがメッセージとして効いた面もありそうです。

——この日のADBでは京都大学大学院の西浦博教授から「蔓延防止等重点措置(以下、重点措置)」の効果が緊急事態宣言と同じだけ発揮されても4月28日には大阪府の重症者数が500人を超える、という衝撃的な試算も発表された。

この日の会合では、大阪府から流行状況の説明がありましたが、府は重点措置の開始から2週間後の4月19日には新規感染者が減り始めることを想定してシミュレーションをしていました。

これについて構成員の一人から『その見通しは甘いのではないか』という指摘がありました。私も同じ意見です。現在まだ1を大幅に上回っている実効再生産数がすぐに1を下回るという見込みはありません。当面、新規患者数は増え続けると予想され、どんなにうまくいっても横ばい程度であろうと考えられます。

たとえ横ばいであっても重症患者はどんどんと増えていく。大阪府が今重症患者用のベッド数を増やしていますが、果たして間に合うかどうか。私はかなり厳しい見通しを持っています。

図-2

図-2、第30回ADB、大阪府提出資料「新規陽性者数の推移と患者発生シミュレーション」

図-3

図-3、第30回ADB、京都大学大学院、西浦博教授提出資料「報告日別の大阪府における新規患者数」

変異株の脅威

——4月14日のADBでは、英国型変異株の増加の見通しについて、鈴木さんの分析が示されて注目を集めた。

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