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中国新人類「寝そべり族」の性態 中国共産党の「野望と病理」|山谷剛史

家も車も買わず、結婚もせず、子供もつくらない「寝そべり主義」に多くの若者が共感。/文・山谷剛史(中国・アジアITライター)

中国は「消費大国」

人々の所得が上がる一方の中国。最低賃金は上海で月2590元、日本円で4万4000円強だ。続く北京で2320元(今年8月より。約4万円)、内陸は人件費が安いがそれでも例えば四川省で1780元(3万円強)。これは、あくまで最低賃金であり、花形のIT職などのホワイトカラーを中心に月1万元(17万2000円)以上稼ぐ人も珍しくない。こうした所得の上昇を背景に、中国は「生産大国」であるだけでなく「消費大国」となりつつある。

なかでも旺盛に消費をしているのは、働き盛りの30代、40代。だが厳密には、彼らの世代だけではない。その子供世代も、親の価値観の影響を受けて旺盛に消費しているのだ。

30代、40代は、貧困を知らず、文化大革命以降の急激な経済成長や環境の変化だけを経験している。賃金、物価、不動産価格が毎年のように上がるなかで、宵越しの金は持たないとばかりに消費してきた。

価格が安くなるのは、スマートフォンやパソコンくらいだが、これまた、性能がよいからといった理由で、日本人よりもずっと高頻度で買い換える。日本のように2年しばりで安いスマートフォンで済まそうとせず、新しい機種を買おうとするのだ。子供にお古のスマートフォンを与える親もいれば、新品を買い与える親もいるが、いずれにしても子供が使うスマートフォンも高性能だ。

文化大革命の影響を受けなかった45歳よりも若い世代が、中国ではちょうど「ネット世代」に当たる。そんなネットに理解ある親たちは、自分の子供たちのネット利用も後押しするのだ。

とくにコロナ禍では、スマートフォンやパソコンを使ったオンライン授業も行なわれた。連絡網はテンセント製のチャットアプリ「ウィーチャット」で、国威発揚番組の視聴が自宅学習の課題となれば、それを家で見た子供の姿を写真で撮ってチャットで送ったりする。スマートフォンを持ち込み禁止とする学校も多いが、その場合も、安全のため、子供にスマートウォッチをつけさせる。

要するに、中国の子供は、ほぼ常時「ネットとつながっている」のだ。

ネット利用が日常化しているこの世代の親子は、当然、キャッシュレスの電子マネーやECサイトも大いに活用しているが、そこにこの世代特有の金銭感覚も加わる。

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「爆買い」する子供も

セコイア・キャピタルの「〇〇后泛娯楽消費研究報告」によれば、2000年代生まれの若者の貯金は、8割近くが1000元(1万7000円強)以上もあるという。しかもお金の使い方について、親が古い考えに囚われていないので、子供自身に裁量の余地がある。だから子供も旺盛に消費しているのだが、富裕層の家になると、欲しいものをキャッシュレスで大人買い(爆買い)する子供もいて、そんな金持ちの子供を狙って、学校の周りには、子供向けの日本製などの輸入文具や輸入おもちゃを売る店まで出現しているのだ。

では、そんな中国の子供たちは、ネットで何を観ているのか。

中国の学生が使うネットサービスで人気なのは、ニコニコ動画からインスパイアを受けた動画サイトの「ビリビリ」と、ウィーチャットと同じくテンセント製のチャットアプリの「QQ」、それにティックトックのライバル「快手(クワイショウ)」だ。小遣いに余裕があり、しかもキャッシュレスなので、学生であっても、見たい有料動画を気軽に見ることができる。

かつて中国は「海賊版天国」と言われたが、現在の中国国内で流通するコンテンツに関しては版権管理がしっかりしていて、海賊版を配信する業者がいれば訴訟沙汰になる。そうした環境下、アニメやドラマや映画を必要であれば有料でも視聴するのが普通の光景になっている。

人気の動画サイト「ビリビリ」のサイト名は、もともと日本のライトノベル『とある魔術の禁書目録(インデツクス)』に登場する準主役級女子中学生「御坂美琴」のあだ名「ビリビリ」からつけられている。ここで見られる動画も、当初は日本のアニメやテレビ番組で、このサイトには、日本好きの学生や若者が集まり、「私設クールジャパンの大本営的なサイト」のような様相を呈していた。

日本以上に厳しい詰め込み勉強が行なわれている中国では、朝から夕方まで学校で勉強した後、自宅でも大量の宿題を処理しなければならないため、学生は、日本のように、バイトはできず、外出して友人宅に遊びに行くことも難しい。しかしだからこそ、閉塞感を抱えた中国の若者にとって日本のアニメが心の支えになってきた。

だが、近年では、中国のアニメ業界も力をつけてきて、良い作品をコンスタントに出すようになった。「ビリビリ」でも、中国のアニメ作品の割合が高まり、中国のアニメの愛好者も増えてきている。

日本製vs中国製

見方を変えれば、これは、中国でもネットの世界が、「愛国心」の表現の場になりつつあるということだ。

例えば、バーチャルキャラクターに扮して動画を配信する「バーチャルユーチューバー(Vチューバー)」のアイドルグループである「ホロライブ」は、中国を含めて世界展開をしているが、台湾問題に関連して中国にとっては「政治的に敏感」な表現がオンラインの生配信中にしばしば発生する。すると、そのたびに愛国心のある中国ユーザーは激怒することになり、「反中的発言」を自主的に監視する人まで出てきている。

さらに最近では、中国国内からは、本来利用できないはずのツイッターなどに、監視の目をかいくぐってアクセスする若者も増えてきた。そこで、日本人の発信する情報をチェックして日本を知ろうとする人や日本人と交流しようとする人もいるが、中国の悪口をいう人に対して抗議しようとする人や日本のB級ニュースを拾って中国のSNSで面白ネタとして紹介する人も出てきている。日本のコンテンツを見て学んだ日本語を「反日」のために“活用”する若者も出てきているのだ。

ただ、日本製コンテンツは、全体として以前よりも中国製コンテンツに押され気味であっても、日本の影響がなくなったわけではない。

ゲーム業界でも中国製ゲームが勢いをつけてきているが、日本のゲームで遊び続ける若者も多い。筆者が尋ねた日本のゲーム大好きな中2の男子は、「クラスの皆が中国製ゲームで遊びますが、ネットでコミュニティがあってそこで日本製ゲームの話で盛り上がり、楽しんでいますよ」とマイペースを貫いている。

また卑猥な話だが、中国語表記を加えた、日本の充実したアダルトビデオや成人向けアニメは、多くの中国の男子学生に支持されている。

中国の若者世代には、経済大国としての自国への自信に裏打ちされた「愛国心」が上の世代以上に見られるが、サブカルチャーや消費文化の世界では、日本からの影響も依然として大きいと言えるのだ。その一つがファッションである。

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JKファッションも大人気

日本製のアニメなどの若者向けコンテンツでは、高校が舞台のものが多い。そのため、「高校生の制服風ファッション」が大都市を中心に人気で、上海や北京はもちろんのこと、内陸の省都クラスでも、「日本人かな?」と勘違いしそうな若者に遭遇する。

女性向けは「女子高校生」から取った「JK」で、男性向けは「男子高校生」から取った「DK」だ。JKの派生で長い丈のスカートや刺繍が特徴の「不良スタイル」もファッションになっている。とくにJKは、一部の成人女性が日常や出勤時に着用するほど広く普及している。

なかでもJKファッションを代表するブランドが「十二光年」だ。

十二光年は、女子高校生の制服風の服のほか、「ロリータ」ファッションや中国の伝統的な雅な「漢服」も扱うが、まさにこの「JK」「ロリータ」「漢服」が今時の“最先端”の若い中国女子に人気だ。ただし、こうした趣味を突き詰めようとすると際限なくお金がかかるため、この3つのファッションは、「破産三姉妹」と呼ばれることもある。

こうした日本からの影響、とくに「日本を体感したい」という欲求は、ファッションの世界に留まらない。

広東省仏山や北京には、東京の新宿・歌舞伎町をモチーフにした「バーチャル日本」が作られ、そこに多くの若者が押し寄せている。

仏山の「一番街」には、日本のどこかで目にしたことがあるようなチェーン店やブランドの看板やネオンや道路標識などが立ち並び、「写真映え」を求めて多くの人が思い思いにシャッターを切っている。

北京の焼き肉屋「肉問屋」もまた歌舞伎町を意識したもので、日本の駅さながらの「自動改札」を通り、券売機でチケットを購入するというギミック(仕掛け)で入店。歌舞伎町さながらの看板や標識に囲まれた空間で肉を焼いて酒を飲むのだが、これもまた「目新しさ」を求める中国の若者に大人気だ。

中国の“流行の最先端”の地である上海では、日本式の焼き鳥屋で焼き鳥を食べながら日本酒を飲むことが流行っている。日本語のネオンに囲まれたギラギラとした空間ではないものの、気取りすぎず、ほどほどの高級さが出会いの場としても絶妙なのだとか。以前は日本食レストランといえばただただ比較的高額な食堂であったが、今や中国のそれなりにリッチな若い世代の間で求められる「新しい庶民的な場」となっている。

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東京の街並みを模した商店街「一番街」

「個性」を求める若者たち

ここにあるのは、単純な「日本趣味」だけでなく、「目新しさ」や「個性」を求める中国の若者の新しい感性だ。

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