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【全文公開】進路への光 原田マハさんの「わたしのベスト3」

作家の原田マハさんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。

10_原田マハ_年末書評特集

 新しい時代・令和になって、これからの若者たちに読み継いでもらいたい名著とは、私が若い時分に出会い、少なからずその後の人生に光を投げかけてくれた本である。しかも、面白いことに3冊とも、私が21歳、大学3年生のときにたまたま手にしたものだ。まさか、のちにこの3冊が一生忘れられない宝物のような本になろうとは、まったく想像もしなかった。

 当時、私は関西の大学に通っていた。実家の経済状態は最悪で、仕送りも止まり、ボロアパートで友人と共同生活、アルバイトをいくつも掛け持ちして、どうにかこうにかやり繰りしているような状況だった。大学の門前に彼氏が外車で迎えに来る友人たちを横目で見ながら、アルバイト先の定食屋に通う。アートが何より好きだったので、時折立ち寄る大学生協で美術関連の本を立ち読みするのが唯一の気晴らしだった。

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 かなり切り詰めた生活だったから、本はよほどでない限り買えなかった。が、21歳の秋、生協で見つけたこの3冊にピンと来て、思い切って買ったのだ。その年、京都市美術館でのピカソの回顧展を訪れた私は、モダン・アートについてもっと深く知りたいと願っていた。『近代絵画史』はその私の希求を十分に満たしてくれる1冊だった。モダン・アートの目覚めと発展について実に明快に書かれた本書は、アートの世界へのドアになった。『アンリ・ルソー 楽園の謎』は、おかしくも心惹かれる絵を描く画家、アンリ・ルソー評伝の決定版である。少々どんくさい凡人・ルソーがピカソをも魅了する楽園を描くに至った謎に迫る本書は、のちに『楽園のカンヴァス』を書くきっかけとなった。『風景との対話』は、風景画家・東山魁夷が、なぜあまたのモチーフの中から「風景」を選び取ったか、自らの体験を確かな筆運びでしたためた随想集である。この3冊は、進路に悩んでいた私に一筋の道を指し示してくれた。世代から世代へ読み継がれ、若者たちの指標となってほしい名著である。



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