
【91-スポーツ】なぜ日本人NFL選手は誕生しないのか|河田剛
文・河田剛(スタンフォード大学アメリカンフットボール部コーチ)
日本の「教育システム」の問題点
近年、日本人のスポーツ選手がこれまで「不可能だ」と言われてきた多くのフィールドで躍進を続けています。女子テニスの大坂なおみ選手が四大大会のうちふたつを制し、バスケットボールのNBAでは、八村塁選手がドラフト1巡目指名を受け活躍しています。
しかし、そんな中でいまだ日本人がたどり着けていない最高峰の舞台があります。それが、アメリカンフットボールのNFLです。
北米で最大級の人気を誇り、全米からトップオブトップのアスリートが集まるNFLで戦うには、日本人では技術も身体能力も足りないという声を耳にします。ですが、そんなことはありません。私は14年間アメリカでコーチをやっていますが、指導方法だけならば日本のコーチの方がアメリカより細かく、丁寧に指導しています。運動能力だけで見れば、日本人でもNFLの舞台に立つレベルに十分なれるというのは肌でも感じます。
ではなぜ、日本人からNFL選手が誕生しないのか――。その理由を考えると、実は日本の「教育システム」の問題点と大きく結びついているように感じます。
私がコーチを務めているスタンフォード大学のアメフト部では、過去10年間で3人の選手がMLBにドラフトされています。アメフト部にいながら野球の最高峰であるMLBからも評価を受けているのです。なぜそんなことが起きるのか。その大きな理由は、アメリカのスポーツ教育システムにあります。
アメリカのスポーツは基本的にシーズン制で、年間を通じて複数の競技に取り組むことがほとんどです。春は陸上競技をし、秋からはアメフトという選手もいれば、野球とバスケを掛け持ちする選手もいる。いろんな競技に挑戦できるシステムの中でそれぞれの競技でスキルを学んで、修羅場をくぐって、精神的にも強くなって、最終的に大学に来るんです。
また、アメリカの学生にとって基本的に大学というのは「自分のお金で行くところ」なんです。だから大学生になるには学業も含めて一定の基準を満たしてスカラシップを得たり、アルバイトで賄うなりして学費を捻出しないといけない。そのためにはアスリートであっても勉強や仕事をするのが当たり前だし、逆に言えばそうでなければスポーツを高いレベルで続けることができないんです。
では、そういった教育に触れているとどうなるか。アメリカでスチューデントアスリートたちと接していて日々感じるのは、彼らは物事の「優先順位」をつけるのが非常に上手なんです。常に複数の物事に取り組み、選択を迫られる教育を受けているので、必要なことと不必要なことを順序だてて判断するのが上手い。そういう思考習慣はスポーツをするうえで非常に大切な能力になってきます。その力を彼らは日常から学んでいるんです。
例えば、NFLのチームから声をかけてもらうには、エージェントの存在が非常に大切になる。なぜなら、いくらすごいプレーができて、現場で気に入られても、アメリカではコーチに人事権はないんです。ヘッドコーチがどんなに選手を評価しても、獲得を決めるのは編成部門のゼネラルマネージャーで、彼らが話すのは選手ではなくエージェントなんです。