佐久間文子さんの「今月の必読書」…『クララとお日さま』
見出し画像

佐久間文子さんの「今月の必読書」…『クララとお日さま』

AI搭載の人工親友が導く歪んだ世界

カズオ・イシグロの6年ぶりの新作『クララとお日さま』は、ノーベル文学賞受賞後の第1作ということもあり、世界同時発売されて話題を集めている。

シンプルなタイトルは童話めいた印象を与える。ショーウィンドーに並ぶクララに目を止めたジョジー。からだの弱いジョジーの遊び相手として彼女の家に買われていったクララは、ジョジーのいちばんの理解者になろうとつとめる……。

あらすじを書けば、それこそ童話じゃないかと思われそうだがそうではない。語り手のクララはもの言わぬ人形ではなく、最新のAI(人工知能)をそなえた、太陽光によって動く人体型のロボット(AF)である。

AFが人工親友(Artificial Friends)だというのは種明かしされるが、「オブロン端末」や「クーティングズ・マシン」といった耳慣れない言葉が説明なく使われる。「オブロン端末」はスマートフォンやタブレットだと想像がつくが、クーティングズ・マシンは、道路工事に使われる排気ガスを出す機械であることぐらいしかわからない。

これは作者の不親切……ではもちろんなくて、AFのクララが初めて世界を見るように、読者の前の世界もひろがっていく。未知の環境を前にしたとき、クララの視界はいくつかのボックスに分割され意味をなさなくなることがあるのだが、そうした認知のゆがみまでも、文章の力で読者に体験させようとする。

この続きをみるには

この続き: 515文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、一流作家の連載小説、心揺さぶるノンフィクション……月額900円でビジネスにも役立つ幅広い「教養」が身につきます。

文藝春秋digital

月額900円

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。