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年間被害360億円 なぜ詐欺はなくならないか

文・松田史朗(朝日新聞経済部記者)

 もはや日本は詐欺がそこかしこに横行する「詐欺大国」となってしまった。警察庁によると、2018年の特殊詐欺被害額は約364億円、認知件数は約1万6,000件。5年連続で360億円を上回り、年ごとの件数は右肩上がりの傾向が続いている。新聞には毎日のように、高齢者が特殊詐欺にひっかかり多額の資産を奪われたという記事が掲載される。

 だが、じつは新聞やテレビで報道される被害は、警察が把握している被害の一部でしかない。あまりに事件数が多いため、メディア側の判断で報道を見送るケースも多いのだ。そのため、被害額が300万円以下の詐欺事件だと、そもそも記者発表さえしないという警察署も多くある。警察に届け出られていない被害も含めれば、全体の被害額はこの数倍にもなる可能性がある。年間360億円超の被害は、まさに氷山の一角にすぎないのだ。

 被害者の7~8割は65歳以上の高齢者だ。日本の高齢者は日常的に詐欺集団に狙われていると言っても過言ではない。突然、投資の勧誘がある、住宅リフォームを勧める営業マンがやってくる、「還付金」があると役所を騙る電話がかかってくる……こうした経験は高齢者の誰もがあるだろう。

 さらに最近の傾向として、いわゆるウラの詐欺集団だけでなく、誰もが知る金融機関が詐欺まがいの行為で高齢顧客とトラブルになるケースが多発している。銀行や保険会社が「資産運用」「相続対策」を口実に、言葉巧みに高齢者に金融商品をたくさん買わせ、次々と別の商品に乗り換えさせていた例もある。筆者の取材では、80代の女性が大手信託銀行の社員の言うがままにリスクの高い金融商品を中心に計1億円を投資してしまい、計40回もの回転売買をさせられた挙げ句、1,500万円もの手数料を取られていたケースがあった。結局、その女性の資産は半分にまで目減りしてしまった。リスクの高い金融商品を、その投資目的に合わず、しかも知識のない人に買わせるのは「適合性の原則」(金融商品取引法第40条第1号)に違反する。こうした売買は、もはや詐欺に等しいと筆者は考える。実際、子供や親族がそれに気づいて訴訟を提起した事例も数多い。

 だが、認知症の高齢者は、多額の損失が出たことすらわからず、騙されても裁判にできない場合が大半だ。2019年には、かんぽ生命の不正な保険販売が発覚した。商品販売先の多くは高齢者で、保険販売を委託された郵便局の職員らは1人暮らしの高齢者を「ゆるキャラ」「半ぼけ」などと呼んで、必要な同意も十分取らずに契約を結んでいた。19年9月末に日本郵政グループが公表した中間報告では、法令違反が疑われる契約は過去5年で約1,400件、社内規定違反を含めると約6,300件にも及ぶという。

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