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村上世彰×三浦瑠麗|自粛明けも日本人を支配する「不安」の正体――経済再生のために今なすべきこと

緊急事態宣言が解除されてから、およそ3週間が経過した6月12日(金曜)、国際政治学者の三浦瑠麗さんと投資家の村上世彰さんのトークセッション「文春ライブトーク 日本経済再生のため処方箋 今、私たちがなすべきこと」がオンライン配信で行われた。

新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた日本は、これからどんな施策をとっていくべきか――その手がかりとして、三浦さんが主宰するシンクタンク・山猫総合研究所と村上さんが評議員を務める一般財団法人創発プラットフォームは共同で「新型コロナウイルスについての意識調査」を行っている。第1回調査の調査期間は4月27〜28日であり、まさに緊急事態宣言下の人々の意識を可視化したが、今回のイベントは、緊急事態宣言解除後の6月8日〜10日に行われた第2回調査をまさに集計中、というタイミングでの開催となった。

三浦 第1回調査では、回答者の9割が新型コロナウイルスに健康不安を感じていました。国際比較でも、日本人は新型コロナウイルスに対して強い恐怖を抱いていると指摘されています。それから一ヶ月後、緊急事態宣言が明けてから10日以上過ぎての第2回調査では、全体の8割となりました。『強い不安』を感じている方の割合は減りましたが、不安を抱いている人はまだまだ多い。

また第1回、第2回ともに、不安を抱く人ほどテレビから情報を頻繁に得ている傾向があります。重症化しやすいというデータが出ている60代、70代以上と、明らかに致死率の低い若年層とで、抱えている不安はあまり変わりませんでした。これは、科学的なデータに基づく不安というよりは、印象論による不安が広がっていることを示しています。

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三浦氏
また、緊急事態宣言中の外出について尋ねた設問の結果は、かなり驚くようなものだった、と三浦さんは指摘する。

三浦 日本では、正式なロックダウンなどはしておらず、飲食店も営業時間時間を区切っての営業が認められていた。なのに、9割弱の人が外食に出かけなかった。ここにはデリバリー、テイクアウトは含まれていません。また外出に関しても、8割行動削減という要請が政府からありましたが、まったく外出しなかった、あるいは7,8割外出を減らした人が6割に及んでいます。そして、解除後消費マインドがすぐに戻ってきているかといえば、今後の買い物について、普段どおりの消費をする、という回答は全体の13.2%にとどまっています。

村上 みなさん、ものすごく慎重だな、と思います。現時点において感染している人の数はどうやら激減しているというのに。

なぜこんなに慎重なのかといえば、日本が世界水準と同じ規模でPCR検査ができなかったから。発表された感染者数ではなく、無症状感染の人も含めて実際にどれだけの人が感染したのかについて、明確な数字が出ていないことが不安や怯えにつながっている。僕は東京病院、東京都医学総合研究所、京都府立大学の3カ所に抗体検査機器を寄贈し、東大先端研、慶應大学、大阪大学と共同で分析を進めており、私自身も寄付を通じて抗体の定量的検査に協力しています。首都圏を中心に3000人ほど検査した中で見えてきた数値としては、抗体を持っている人はどうも0.5%行かないな、という感じです。おそらく地方はもっと低くなりますから、日本全体で50万人プラスマイナス20万人くらいではないか、というのが僕のイメージです。50万人で1000人弱の死者(6月12日時点で厚労省発表の死亡者数は924人)とすると、致死率は0.2%となります。

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村上氏

三浦 日本感染症学会が、感染拡大前に示した新型コロナウイルスの致死率(暫定的仮定)は2.0%でしたよね。

村上 北海道大学の西浦博教授が緊急事態宣言中に発表した試算で、何も対策を施さなければ42万人が死亡する、とおっしゃったけれども、実際はそうはならなかった。何が良くて、結果として感染者が少なかったのか。そもそもなぜアジアでの致死率が欧米に比べて低いのか。そのあたりもしっかり検証して、明確な数字を踏まえての答えが出てこなければ、適切な経済対策も打てないはずです。

たとえば、新型コロナウイルスは高齢者と若者とで重症化率が全く違うのだから、抗体検査をどんどん進めていく中で、年代別、抗体の有無別で社会活動の許容レベルを変えていってもいいですよね。

ちなみに僕は根っからの自由主義者ですが、強制的な休業措置については、すべきだったと思っています。先進国で強制しなかったのは日本だけです。データをもとに合理的な基準を設けて、クラスターが発生しやすい業種の仕事は休んでいただく、その代わりにきちんと補償するべきだ、と思います。

では、これから第二波到来時に適切な対策をとるためには、どんなことが必要なのか。

三浦さんは本イベントで「経済復興シナリオ」と題した資料を提示し、感染拡大及び経済状況の推移について、悲観・楽観・中間の3つのシナリオを示し、備える必要性を訴えた。

三浦 第二波が来たと仮定したとき、もし緊急事態宣言を再び出せばどんな経済的ダメージがあるかを経済の専門家が可視化して提示しなければ、感染症の専門家としては、感染者数を限りなくゼロにするために人びとの活動を最大限抑圧する方向に注力してしまうしかない。そうなれば、結果としてバランスを欠いた施策になってしまう。実は、専門家会議のメンバーも専門外の影響に対して不安があり、緊急事態宣言を延ばすことによるさまざまな影響、経済的予測を知りたがっていました。政府はそれにしっかりと応えることができていないんです。

自殺者の数について、興味深いデータがあります。経済を止めると失業者が出ますが、失業率が1%増えると自殺者が4000人増える、というデータが参議院の事務局調査担当室の試算として出てきています。そう考えると、もっと早く日本政府が、専門家会議が出してくる医学的な知見と、経済の専門家が上げてくる経済的な知見を天秤にかけて判断しなければならなかった。これは死者対お金ではなく、死者対死者の問題。どちらも最終的には人命に直結するんです。

村上 本当に1%増えると、4000人増えるんでしょうか?

三浦 日本における自殺について、OECD諸国の中では男性比率が高く、また経済的な理由による自殺が多い、と分析しているChen氏、Choi氏、澤田氏による2009年の論文がありますが、その学術論文の推計だと、もっとも悲観的な経済シナリオでは60000人ぐらいの自殺者が出てしまい、少々高すぎるのですね。参議院事務局の前田氏によるペーパーでは、2009年から2019年のパネルデータを用いて都道府県別の固定効果(都道府県の特性によって一定の自殺者が存在する)を計算式に入れ込んだモデルで回帰分析を行った結果、各都道府県において完全失業率が1ポイント上昇すれば自殺死亡率が3.53人上昇するという結果が出ました。回帰式は1%の有意水準でも有意となり、決定係数(R2)は0.84と非常に高い数値です。これを現在の日本の人口に当てはめると、完全失業率1ポイント上昇すると、約4000人自殺者が増えるという想定になります。

村上 自殺者については、日本が先進国の中でも非常に多いこともあって、僕も以前から関心を持って調べていました。日本でいうと、自殺者は90年代後半に30000人を超え、その後35000人近くまで行きましたが、少しずつ減ってきて、リーマンショックの時にまた若干増加。そこからまた減って、今は20000人弱まで落とすことができました。手前味噌になるけれど、僕が支援しているNPOの活動も含めてみんなが貧困者支援、ホームレス支援などに動き始めていて、ケア体制が劇的に整いつつあるんじゃないかな、と感じています。政府も第二次補正予算でこのあたりに30億も予算をつけてくれましたし。

三浦 その取組は本当に正しいことだと思います。でも、もっと広がりが必要です。自殺対策支援センターライフリンクの清水康之さんが話していたことですが、この4月5月は、三密を避けるために、自殺者支援活動が十全にできていなかったそうです。こういった事業に従事する人々の人数がまだまだ少ないと思います。

村上さんは、日本が抱えているさまざまな社会課題を解決するための活動を、10 年以上継続して取り組んでいる。東日本大震災の時も現地に入り、支援活動に積極的に取り組んでいた。そして今回も、抗体検査への協力だけでなく、独自のマッチング寄付プロジェクトも含めて、幅広く支援活動を行っている。国からの給付金について寄付を考えている人は、村上財団や創発プラットフォームのホームページにアクセスしてみることも選択の一つとなるだろう。


なお、本イベントの模様は以下のURLで無料視聴できる。



【村上財団のマッチング寄付プロジェクト】

(創発プラットフォームへの寄付を含むプロジェクト一覧)

(抗体検査機器寄贈の支援)

一般財団法人村上財団
一般財団法人創発プラットフォーム 
山猫総合研究所



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