著者は語る

『地形の思想史』著者・原武史さんインタビュー

「自戒を込めて言うと、学者というのは文章やテキストを読むだけでわかった気になりがちな人種です。しかし、日本列島の多様な地形そのものが、そこに暮らしたり滞在したりする人たちに及ぼす影響は言葉だけでは語りつくせません。その語りつくせないものを感じ取るために、研究室の外に出て、まず『現場』を歩いてみることにしたのです」

本書はこのような問題意識のもと、日本政治思想史を専門にする原武史さんが「いわゆる観光地とは異なる国内のさまざまな場所に出掛けながら、地形と思想の浅からぬ関係について考察した紀行文風のエッセイ」である。峠、島、麓、台、半島といった「地形」に注目し、その場所に潜む思想史的な文脈を読み解いていく。実際に「現地」に足を運び、そこでの体験を通して、原さんは考察を深めていった。

「静岡県の浜名湖に、地元で『プリンス岬』と呼ばれる小さな半島があります。現・上皇が皇太子だったころ家族と夏に8回も訪れた場所です。一家が当時滞在した保養所が今でも残っていて、本書の取材のために特別に中に入ることができました。ごく普通の間取りと大きさの『海の家』で、そこで実際にあの一家がひと夏を過ごしたということは、知識として知るのと中に入って実感するのとずいぶん違うなというのが正直な感想でした」

現天皇を含めた3人の子供たちは小さな部屋で「川の字」になって寝たのだろうか? プリンス岬の保養所は、御用邸とは違って政治やマスコミを近づけない、核家族にふさわしい空間だったのではないか――地形や場所に触発されるように、原さんは様々に考えをめぐらし、思考を深めていく。それは、旅を通してしか味わえない「特別な経験」でもあったようだ。

「今はネットで検索すれば、どんな地域の画像でも瞬時に出てきて、なんとなく行った気になりますが、実際に訪ね歩かなければわからないことも多い。

こうしたアプローチは思想史学の従来の方法に比べて、かなり実験的な取り組みだと思います。しかし、今は文科系の学問全体が先細りになって、自分たちの学問の在り方も見直さないといけない時期です。思想史学の世界をもっと開かれたものにしたい。そのためには他分野の人々にも面白いと言ってもらえるものにしないとまずいんじゃないか。そんな危機感も、この本を書く原動力の一つになりました」

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