【69-文化】没後160年 疱瘡絵で再注目される歌川国芳の魅力|日野原健司
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【69-文化】没後160年 疱瘡絵で再注目される歌川国芳の魅力|日野原健司

文・日野原健司(太田記念美術館 主席学芸員)

「妖怪」と「猫」

日本の美術館では、ここ15年くらいの間、日本美術を扱った展覧会が、大勢の入館者を集めている。ルネサンス期や印象派、ポスト印象派を主とした、西洋美術ばかりに人気が集中していたバブル期を思い出すと、かつては古臭いと敬遠されていた日本美術のイメージは、大きく様変わりしたと言えよう。なかでも、それまで無名だった存在が一躍スターになったということでは、ニワトリを得意とした伊藤若冲が挙げられる。2016年に上野の東京都美術館で開催された展覧会では、1日あたりの動員数は1万4000人以上、待ち時間は最大5時間以上という、驚異的な数字をたたき出した。

近年の日本美術ブームの中で、若冲に次いで注目を集めるようになったのが、浮世絵師の歌川国芳である。浮世絵といえば、葛飾北斎や歌川広重、東洲斎写楽など、教科書にも載る著名な絵師たちも多い。特に北斎は、海外でも評価が高く、2017年にはイギリスの大英博物館で大規模な展覧会が開催されている。

一方、歌川国芳は、10年以上前の時点では、浮世絵好きはともかくとしても、一般の人々が認知している存在ではなかった。それが、2011年に六本木の森アーツセンターギャラリーで開催された展覧会をきっかけとして人気に火が付き、今では、北斎や写楽と並ぶ主要な絵師として、5本の指に数えられるまでになった。2021年は没後160年となり、さらなる注目が期待される。なぜ、国芳ファンは急激に増加したのだろうか?

国芳は多岐に渡るジャンルの浮世絵を描いているが、昨今、特に注目を浴びているのが「妖怪」と「猫」である。

国芳が最も得意としていたのが、武者絵。武者絵とは、歴史や物語に登場する武者たちが戦っている様子を描いたもので、現代の少年漫画に通じる、誇張された迫力ある描写が見どころである。人間同士の戦いだけではなく、時には、不気味な妖怪が敵として出現し、それを退治するという場面が描かれる。巨大な骸骨が襲いかかってくる「相馬の古内裏」は国芳の代表作として最も有名であろう。

妖怪ブームは、かなり以前から、水木しげるの漫画、京極夏彦の小説、妖怪ウォッチというゲームなど、定期的に繰り返されてきた。その影響を受けてか、ここ10年、博物館や美術館でも、妖怪を題材とした展覧会が急増している。広島県三次市では、三次もののけミュージアムという妖怪を専門に扱う博物館が、2019年にオープンした。こういった妖怪ブームの中で、国芳の妖怪も改めて注目されるようになったのである。

また、国芳は猫の絵をたくさん描いている。人とともに暮らす姿もあれば、頭は猫、体は人間という擬人化した姿でも登場する。国芳自身、家に何匹もの猫を飼っており、猫を抱きながら仕事をしていたというほどの、大の猫好きであった。そのためか、国芳の猫たちは、いずれも愛情たっぷりの可愛らしい姿で描写されている。近年、ネコノミクスとも称された猫ブームとも相まって、浮世絵ファンならずとも、多くの猫好きたちを魅了したのである。

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