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「自前主義」で世界的EVメーカーを作りあげた貧しい農家の息子 王伝福(BYD創業者)世界経済の革命児71 大西康之

ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、王伝福(Wang Chuanfu、BYD創業者)です。

世界経済の革命児_王伝福:クレジット新華社/共同通信イメージズ

王伝福
©新華社/共同通信イメージズ

会社の英語名は「あなたの夢を作ります」

世界2位の電気自動車(EV)メーカー、比亜迪汽車が7月21日「日本の乗用車市場に参入する」と発表した。その圧倒的なコスト競争力を武器に本国、中国では、米テスラを抜いて販売台数1位に躍り出た。値段だけでなくEVの生命線である航続距離での世界最高レベルをクリアしている。シャオミなどの中国勢が他国メーカーを駆逐したスマートフォンと同じことが、自動車でも起きるのだろうか。

7月4日付で100%出資の日本法人を設立し、2023年1月から順次、3車種のEVを販売する。最初に投入する「ATTO3(アットスリー)」はフル充電で485㎞走り、中国では300万円前後で売られている。日産自動車「リーフ」のスタンダードタイプは航続距離400㎞で370万円。「国産EV危うし」の声が聞こえてくる。

会社の英語名は「Build Your Dreams(あなたの夢を作ります)」のイニシャルを取ってBYD。この社名は伊達ではない。BYDの関係者は、自社の価格競争力の源を「部品の半分以上を自社生産しているから」と説明する。部品のみならず、部品を作る生産装置から自前で「ビルド」しているのだ。

創業者の王伝福は20年前、日本の新聞のインタビューで同じことを言っている。

「我々のコスト競争力の源泉は、生産設備から検査装置まですべて自社で開発していることだ。例えば500台使うレーザー溶接機。外国製を買うと1台25万~50万ドルするが、自分で作れば5万ドル。この差は大きい」

実は2002年のこの時、BYDはまだEVメーカーではなく、携帯電話やパソコンで使う二次電池(充電式電池)の大手として頭角を現していた。必要なものは何でも自分たちで作ってしまう旺盛な開発能力を武器に、創業からわずか7年で世界有数の電池メーカーにのし上がり、そこからEVに事業領域を広げたのである。

王は1966年、安徽省無為市の貧しい農家に生まれた。13歳で父が、その後、母も亡くなったため、兄に育てられた。兄は勉強ができた王を中南工業大学に進学させる。ここで化学を学び、1990年に政府の研究機関である北京非鉄金属研究院で修士号を取得した。

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