【連載・最終回】EXILEになれなくて #26|小林直己
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【連載・最終回】EXILEになれなくて #26|小林直己

第四幕 小林直己

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七場 世界へ、そして未来へ展開するLDH 

 2021年4月、新型ウイルスの蔓延を防ぐため、日本では3回目となる緊急事態宣言が発出された。世界中で、未知のウイルスへの対抗策としてさまざまな方法が議論されている。ワクチン接種が進んでいる国では、これまでの大変な状況から脱する可能性も見え始めている。ウイルスとともに過ごしてきた昨年からの日々は今、大きな転換期を迎えようとしている。

 しかし、日常単位で物事を見てみると、格別変わったところはない。朝起きて仕事をする。家族や友人、同僚との時間を過ごしながら、食べて、寝る。リアルがリモートに切り替わるなど手段の変化はあったが、社会で生きる上で僕らが行っているのは、変わらぬこのルーティンだ。

 明るい笑顔が世の中に溢れる日が戻ることを願いながら、緊急事態宣言下においても、今日も僕は家でできることを行っている。

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 この連載もついに最終回を迎える。これまで僕が歩んできた道を振り返ってきた。その中で、連載の執筆を通して今だからこそ気づくこと、再発見することがたくさんあった。最終回となる今回は、そんな僕が活動を共にさせてもらっているLDHが今、取り組んでいることについて触れていきたいと思う。

 僕が所属するLDHは、アーティストマネジメントを中心として始まった会社だ。かつて、EXILEのオリジナルメンバーが彼らの目指すエンタテインメントを作り上げるために立ち上げた会社である。つまり、LDH≒EXILEとして始まった。しかし、その後、EXILE以外のアーティストも所属し、ライブ興行、音楽配信、アパレルなど関連するビジネスも増え、複合的にエンタテインメントを提供する企業に成長している。

 昨年、つまり2020年は「LDH PERFECT YEAR 2020」と題し、LDHを挙げて1年間をかけて行うスペシャルライブイヤーになるはずだった。ところが、新型ウイルスの影響を受け、予定していた約300もの公演は中止または延期に追い込まれてしまった。損失を計上したのはLDHだけではない。イベント運営元や会場、関連グッズ市場や周辺のビジネスが失われ、関わる人たちにどれほどの損失が発生したかは計り知れない。未だ終息が見えない中、そもそもどれだけの損失が発生したか数字を正確に計算することすらできていない状況だろう。仮に新型ウイルスが終息し、損失の規模が明確になれば、それに対する具体的な活動は見えてくる。ところが、終息が見えない限り、補填に向けた活動内容をはっきりと出すことさえ困難になっているのだ。

 新型ウイルスがLDHに及ぼした影響は、経営面だけに限らなかった。LDHが持つフィロソフィー(哲学)を継承するプロセスにも波及した。「LDH PERFECT YEAR 2020」で伝えたかったEXILEの想いや信念。三代目 J SOUL BROTHERSの10周年記念興行。そのようなライブを通じて次の世代に受け継いでいくつもりだった。ところが、興行自体を実施できなかったため、こうしたLDH独自の継承ができなかった。また、予定していた各アーティストのヴィジョンやスケジュールが、2~3年後ろ倒しになった。加えて、ファンの方々との交流が激減してしまったことで、EXILEや三代目 J SOUL BROTHERS、Jr. EXILEの活動する姿に期待を持ってもらったり、応援してもらうこともできなかった。

 そういった中、LDHは2021年の元旦に満を持して再始動した。EXILE TRIBEが一丸となり、「RISING SUN TO THE WORLD」というスローガンを掲げ、LDHエンタテインメントの復活を宣言したのである。このスローガンには、こんな思いが込められている。

 社名の由来にもなった「Love, Dream, Happiness」というメッセージを掲げていたEXILEが、2011年、東日本大震災からの復興の願いを込めて「日本を元気に」というメッセージとともに発表した楽曲が「Rising Sun」である。その後の力強い東北の復興を見て、僕たちはその曲に込められた「陽はまたのぼってゆく」という、何があっても立ち上がる、人々の力を肌で感じ、信じることができた。

 そして東日本大震災から約10年後に新型ウイルス蔓延という未曾有の危機が世界を襲った。僕たちは、この状況からの復活を願い、「日本を元気に、そして、日本の元気で世界を元気に」という思いとともに「RISING SUN TO THE WORLD」というテーマを掲げることにしたのだ。この言葉と共に、LDHはエンタテインメントだからこそできることがあるはずだと動き始めた。

 2020年2月、当時の安倍政権が呼びかけた「大規模イベントの自粛要請」により、EXILEは開催当日にライブを中止した。「EXILE PERFECT LIVE 2001→2020」と題し、6年に一度のPERFECT YEARに開催されるこのライブに、メンバーは並々ならぬ思いを抱えていた。しかし、未知のものであった新型ウイルスに対する対策を政府が打ち出し、僕たちは想定しえなかった事態に直面した。要請を受けたのは当日の昼。開場時間も迫る中、緊急会議が行われた。熟考の結果、メンバーやスタッフ、そして来場する方の安全を最優先し、中止という決断を下した。

 あの日から、約1年が経った。2021年、EXILE TRIBEにとっての「復活の狼煙」となったのが、「RISING SUN TO THE WORLD」というスローガンである。そこには、LDHに関わる全ての人の思いが込められている。

 エンタテインメントを提供する上での感染リスクは、決して低いものではない。また、感染リスクを回避するためには、まとまった予算や人員が必要となる。しかし、本気でLDHのメッセージを体現するには、しっかりとした準備を行った上で確かな行動をすることが必要だ。

 LDHの興行があることで、関連する企業の社員やアルバイトを含め、延べ約10万人の雇用が生まれている。LDHの選択によっては10万人に影響が及ぶ。LDHはその事実を重々承知していた。その上で、事態を恐れてばかりで引きこもっているのではなく、しっかり前向きに対策をとって動いていくために、LDH独自の新型コロナウイルス対策委員会を作り、興行に対し前向きに動き始めた。世の中や経済を動かし、社会に貢献できるのではないかという考えに基づく行動だった。

 新型ウイルスは終息していない現在進行形の問題だ。どのようなリスクがあるのか、どのような対策を取り実際に活動するのか。それらに徹底的に向き合うことがLDHの責任だと考え、リサーチを続けた。そして、その責任を果たした上で、具体的な行動を持って意思表示をするべきだと考えた。その方法が、ライブだった。

 その一例が、安全面の検証だ。LDHは、ドームでの公演の指針として設定されていた、キャパシティの各基準に対する感染対策の実証実験を、経済産業省・読売新聞東京本社・読売巨人軍・東京ドーム・キョードー東京(敬称略)の協力のもと行った。また、ファンの皆さんに対し、「Save Your Neighbor(セーブ・ユア・ネイバー:周りの人を守ろう)」という啓蒙活動も行っている。LDHの思いに賛同し、応援してくれる人が、家に帰った後も、周囲の人に対し感染対策を実行するリーダーになってほしい。こうした意識の輪が広がれば、本当の意味で日本が安全になるのではないかと考えた。

 ライブを観てくれた人が少しでもポジティブな気持ちになってもらえたら。元気になって家に帰り、それを周りに伝えてくれたら。それがエンタテインメントだからこそできる社会貢献なのではないか。この思いを実現するために、行動が必要なのである――それが、LDHの想いであり、同時にHIROの想いなのではないかと僕は思っている。そして、HIROの想いに所属アーティストが触れたことで、 LDHが一致団結した。それは、ファンの方にも伝わっていると信じている。

 LDHには、バラエティに富んださまざまなアーティストが所属しているが、大きな信頼関係のもと組織が成立している。全員が「EXILE」の想いに触れ、共有し、その上で活動を行なっている。こうした関係性だからこそ、統一性を感じられるのである。この組織の特性が、今回のLDHの一致団結につながっていた。

 前向きに行動に移していくこと。ウイルスの流行が終息していないこの時期での判断には、僕自身、正直驚いた部分もあった。しかし同時に、LDHが持つ「行動が伴わないと説得力がない」、「トレーニングと一緒で、1年も2年も休むと、いざ動きたい時に動かせない」、「動くことで日々に緊張感が出る」という考え方に対しては、同意できるものもあった。未来を見据え、前向きなマインドにいち早く切り替えたことで生まれてきた考えなのだろう。事実、新型ウイルスの影響で自らの活動や意義に悩んでいたところもあった僕は、仕事がある(すべきことがある)ことでホッとしたところがあった。

 どちらにせよ、今は「耐える時期」であることは間違いない。しかし、動き出したことにより、予期せぬ発見もあった。LDHが、より進化していく上での気づきを得ることができたのだ。

 これまで、興行がメインだったLDHは、不測の事態によりリアルのライブが制限されると、それに紐づくビジネス全てに大きな影響が出ることを身をもって体験した。しかし、こうした状況に陥ったからこそ、リアルと同じメッセージとスタイルを内包する、リアル以外のエンタテインメントがあったならどうだろう、という方向に意識が向いていった。

 昨年、LDHの新たなオンライン・ライブエンタテインメント・ブランドとして誕生した「LIVE×ONLINE」や、LDH所属アーティストとオンラインで交流できる「CL」というサービス。僕たちは、リアルとバーチャルを融合させることによって、リスクを回避しつつ未開拓だった領域にも踏み込むことができると分かった。さらにオンラインでもっと手軽にグッズが買えたり、LDHの音楽を使ったゲームが生まれたりしたら、もっと楽しめるエンタテインメントを提供できるのではないか……新型ウイルスに直面したことで、LDHエンタテインメントの可能性を広げる視点が生まれたのだ。

「ピンチはチャンス」。LDHが過去に何度も壁にぶつかったときに、口癖のように言ってきた言葉だ。困難な局面においても、その精神のもと、LDHは新たなビジョンに向かって動き出している。

***

 ここからは、そんなLDHの新たな可能性に触れてみたい。

 これまでのリアルのエンタテインメント、つまり、直接同じ空間でアーティストのパフォーマンスに触れられるライブなどは引き続きLDHの軸となる。それを前提とした上で、新型ウイルスの影響下で気づきを得た後に準備を加速させたものがある。現在、3つの新たな可能性が生まれてきている。 

(1)BATTLE OF TOKYO

 リアルの興行と「対」になるバーチャル分野のプロジェクトである。4月18日に行われた記者会見で解禁となった。概要は次の通りである。

 LDHが新たに創造する前代未聞の次世代総合エンタテインメントプロジェクトである「BATTLE OF TOKYO」。エンタテインメントがテクノロジーによって進化する時代、アーティストを中心にリアルとバーチャルを横断・融合することで生まれる世界初の「Mixed Reality Entertainment」として動き出す。
 舞台となるのは架空の未来都市「超東京」。Jr. EXILE世代のメンバー総勢38名が集結し、バーチャルキャラクターとなってバトルを繰り広げていく。最新テクノロジーにより、アニメ・AR/VR・ゲーム・音楽・ミュージックビデオ・ライブ・映画・デジタルグッズなど、あらゆるエンタテインメント体験を創造する。
2019年に、GENERATIONS・THE RAMPAGE・FANTASTICS・BALLISTIK BOYZの4チームの総当たりコラボバトル「ENTER THE Jr. EXILE」にて、6本のコラボバトルMV、コンピレーション・アルバム、幕張メッセでの4日間連続ライブなど、さまざまな展開で熱狂を生み出した。
 壮大な構想のもと約2年に亘り準備を重ね、2021年、「BATTLE OF TOKYO」プロジェクトがついに始動する。
 
誰も見たことのない革新的な「TOKYO-POP CULTURE」を。
TOKYOから世界へ。

「BATTLE OF TOKYO」は、アニメカルチャーだけに限らず、ファッション性やCG・モーションキャプチャーなどのテクノロジーがミックスされた新たなエンタテインメントプロジェクトである。すでに、2021年4月にミュージックビデオが4本、キャラクターは38体全てが公開されている。また、その38体全てを、現在第一線で活躍している声優が担当していくというこのプロジェクトは、僕から見ても刺激的なプロジェクトである。アーティストがアニメキャラとなり、バーチャル空間で縦横無尽に駆け回る姿を見て楽しむことができるし、アニメを見て好きになったキャラクターが実写で存在する面白さを味わえる。これまでにない体験だ。

 アーティストの立場から見ても、バーチャルで自身をもとにしたキャラクターが存在するプラットフォームがあることで、時間や場所、スケジュールや、年齢やピーク期間を意識することなく、活躍し続けることができる。バーチャル空間のキャラは歳を取らないので、本人はその間にセカンドキャリアを組み立てることもできるのだ。

 スタッフに話を聞くと、このプラットフォームは独立したものとして考えていくとのこと。LDHのメンバーはもちろん、それ以外のアーティストや俳優、また、ファンもいずれ、この世界に参加できるような構想を抱いているのだとか。とても楽しみなプロジェクトである。

(2)キッズ・プロジェクト

 未来を担う存在である子どもたちに向けたエンタテインメントも徐々に動き出している。

 今年、EXILEは20周年を迎えることができた。そんな中、長年応援してくれていた方々が、家庭を築いたり、子どもが生まれたり、と環境が変わっていく時期になったという声が届いていた。そういった方々を含め、子どもや家族と一緒に楽しめるプロジェクトを作りたいと思ったのがきっかけだったようだ。

 元々、LDHではさまざまなキッズ・プロジェクトが進行していた。LDHのスクール、EXPG STUDIOではキッズクラスが開講当初からあり、ライブやMVでメンバーと共演を繰り返している。また、EXILE ÜSA、EXILE TETSUYA、GENERATIONS 小森隼が参加する、子ども向けダンス番組であるNHK「Eダンスアカデミー」もあるし、テレビ東京系のドラマ「ガールズ×戦士シリーズ」の出演者で構成されるGirls2(ガールズガールズ)は、メンバー全員がEXPG STUDIO出身である。

 そのほかにも、LDHのCSR活動として、夢の大切さを伝え、未来を担う子どもたちをサポートする「Dreams For Children〜子どもたちに、夢を。」というものがある。また、先日、クリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和氏とHIROによる「STOP FOR NOTHING」という新プロジェクトも発表された。こちらは、世界に羽ばたく才能ある子どもを応援しようという内容だ。アンバサダーとしてFANTASTICSが就任した。こういった活動にはLDHアーティストも各方面で関わっている。

 これまで取り組んできたキッズにまつわる活動はこれに限ったものではなく、ほかにも同時にいくつも動いている。そういった中でLDHが培った想いと経験が、新たに総合的なキッズ・プロジェクトに集約され、これから動き出していくという。子どもと親が一緒に楽しめるようなファミリー・エンタテインメントや作品などが作られていくことが予想される。ぜひ、発表を楽しみに待っていてほしい。

(3)グローバル・プロジェクト

 2017年にLDHは、LDH JAPANを中心に、LDH USA、LDH ASIA、LDH EUROPEの4つの世界拠点と連携してグローバルに活動していくことを発表した。そして2021年現在、「BATTLE OF TOKYO」や「キッズ・プロジェクト」を含め、音楽をはじめとするLDHエンタテインメントとTOKYOのカルチャーを発信していくべく、社内でも動きが活発化する中、新たに始動するグローバル・プロジェクトが発表された。発表されたニュース(2021年2月16日 PR TIMES記事より)より抜粋する。

 グローバルエンタテインメント企業の株式会社LDH JAPANと、韓国の文化コンテンツ専門投資ベンチャーキャピタルのTGCKパートナーズが手を組み、コンテンツ専門の新会社「HIAN(ハイアン)」を設立した。
 HIANの今後の具体的な取り組みとしては、韓国で680万人以上を動員した大ヒット映画「犯罪都市」(原題:The Outlaws)の続編で現在韓国にて制作中(2022年日韓同時公開予定)の「犯罪都市2」(原題:The Roundup)の配給を行うことが既に決定。さらに映画「犯罪都市」の主演俳優でありMARVEL映画「ETERNALS」に出演するなど世界で活躍する俳優兼プロデューサーのマ・ドンソク(Don Lee)本人をはじめ、映画「犯罪都市」のオリジナルプロデューサーが共同で参加し、映画「犯罪都市」日本版リメイクの制作を行うことも決定している。

「HIAN」では、韓国で大ヒットを記録した映画「犯罪都市」のリメイクを行い、また同時に、マーベル・スタジオへの参加も決まった俳優 マ・ドンソク氏の日本でのエージェントもLDHが担うことが発表された。日本、韓国、そして世界に向けたエンタテインメントを創造していくプロジェクトだ。

 アジアでのエンタテインメントの発信地として、2021年、アジアをリードする韓国との取り組みは、個人的にもとても興味がある。音楽市場では、日本は世界第2位のマーケットであり、これまでの日本国内の音楽市場は、内需を満たすことをメインに考えられてきたのだが、音楽の聴かれ方の移り変わりとともに、マーケットを世界に求める動きが出てきている。その際に、韓国の視点や経験を改めて参考にし、時に、共に協力して作品を作り上げていくことで、アジア発のエンタテインメントがもっと世界中へ届けられると感じている。

 近年、アジアに関する話題がさまざまな国のニュースで取り上げられている。グラミー賞にノミネートされたBTSや、アカデミー賞受賞作品である「パラサイト 半地下の家族」などに代表される韓国映画の活躍がある一方で、アジアン・ヘイト・クライムに関するポストがSNS上で交わされている。また、香港のカンフー映画からインスパイアされたと言われるマーベルの新作映画「シャン・チー/テン・リングスの伝説」や、韓国をルーツに持つ移民家族の物語を描いた「ミナリ」など、アジアに関連する作品が続いている。この「HIAN」プロジェクトもいずれ、必ず大きな意味を持つはずだと感じている。

 LDHは世界に向け、そして未来に向けて、これからも挑戦を続けていくことだろう。僕は、LDHと共に歩んできた。そして、本当にたくさんのことを教わった。LDHが願う「Love, Dream, Happiness 」のメッセージが世界中に広まり、エンタテインメントを通じて世の中の幸せに貢献できることを、心から願っている。

***

 話は、現在に戻る。

 2021年4月、テレビ番組出演に向けたリハーサルのために、EXILEメンバー数人がLDHのスタジオに集まった。生放送となる出演に向けて、振り付けや構成はもちろんのこと、カメラワークや演出についてのアイデアを出し合い、リハーサルを重ね、踊りも体に染み込ませた。

 リハーサルが終わった後、スタッフからこれからの興行についての話があった。直近のEXILEの単独公演は、最終公演が中止となった2020年のライブツアーになる。次の興行がもしあるとしたら、そこには、メンバーとしても格別の思いがこもった内容になるはずだ。メンバーは静かに耳を傾けた。

 話題は次第に「これからのEXILEについて」に移った。昨年、14人体制になり新たなフェーズに入ったEXILEは、これからどこへ向かい、何を求めて、どんな思いを作品に投影していくのか、意思統一していくことは、作品作りに向けてのファーストステップとなる。新型ウイルスの影響で、今では食事会や酒席はほとんどなくなってしまった。互いが考えていることを交わす機会がこれまでよりも少ない中、こうして顔を合わせて話せることで、それぞれの温度感を共有しあっていった。

 活動について話すときはいつも、その年の話だけではなく、2年後、3年後を意識する。やるべきことも時間を逆算して決まっていくことが多い。今年、20周年を迎えるEXILEだが、新型ウイルスの影響もあり、来年以降の活動は、状況に合わせて変わってくるだろう。AKIRAや僕、岩田剛典が、自身が想定するこの先数年のビジョンと、グループとの関わり方の話をした。それを聞いていたTETSUYAが言った。「こういった話が最近できていなかったから、とても必要だと思う」。その場にいるメンバー誰もが、そう感じていたことだろう。

 20周年を迎えた今のEXILEには、結成当時のオリジナルメンバーはいない。しかし、その歴史と想いを受け取った第2、3、4世代目のメンバーが、今こうしてEXILEを引き継ぎ、新たなEXILEを表現している。20年目のEXILEであり、これから新たに生まれるEXILEだ。そんなEXILEの「今」とメンバーの「決意」が、4月27日に発売された新曲「PARADOX」に込められている。

***

 そろそろ、この連載の最終回も終わりを告げる。

 今、自分が目指すゴールに向かうために必要な次のフェーズに欠かせない何かが、もう少しで見つかりそうな気がしている。実際、その輪郭は見えてきている感覚がある。

 僕は、これまでに与えられた貴重な機会を活かせないことが多くあり、それに対する後悔から、自分のしてきたことは全て間違っていたのではないかと思ったこともあった。しかし、全てが間違いでもなかったと、今では思えるようになった。歴史の上に今があり、今の選択の先に未来があることを、新型ウイルスと過ごす期間の中、改めて気づくことができた。これまでずっと支えてくれているファン。共に働くスタッフ。向き合ってくれるメンバー。そのありがたみを感じれば感じるほど、過去の後悔を未来の一歩につなげるための今日を、大切に思った。

 思えば、ずいぶん回り道をしてきた。しかし、そのおかげで、自分がどのような人間で、何が大切なのかを、見つめ直す時間と機会を作ることができた。「あの時」には、EXILEになれなかった僕が、時間をかけて、愛や夢や幸せのことを手探りで考え続けたことで、今、未来につながる一歩を踏み出せている気がした。たくさんの失敗もしたけれど、僕は、僕の「Love, Dream, Happiness」を見つけることが出来たんだ、そう、思った。

 これが「正しい」かどうか、僕にはまだわからない。これからの人生を通じて、証明していくものだと思っている。ただ、今はとても気持ちが明るく、後悔のない選択ができるような気がする。

 もしかしたらこれが、「人生を引き受けていく」ということなのかもしれない。「EXILE」というものになるのではなく、僕自身の人生を。そして、それこそが、本当の意味でEXILEになる、ということなのかもしれない。EXILEとは、「生き方」のことだからーー。

 未来へ展開するLDH。
 新たなフェーズに入ったEXILE。
 成熟した三代目 J SOUL BROTHERS。

 僕の「Love, Dream, Happiness」——。


 EXILEになれなくて、僕は道を探し続けた。
 その回り道が僕を、EXILEに導いてくれた。
 自分に素直になること。それが僕のEXILE。
 道は、これからも続いていく。

(完)


P.S.
 新型ウイルスが猛威を振るう前に、ある小説の解説文の依頼を受けた際、こんな言葉が浮かんだ。

「人生こそがエンターテイメント。そうであるならば、あなたもその作り手であり、演者であり、観客である」

 人生の主役は1人しかいません。誰もがその人生の主役なのです。あなたの人生の主役はあなたです。
 自分を愛し、人を愛し、そして、幸せな未来へ歩んでいってください。応援しています!

●出典元
・BATTLE OF TOKYO記者発表会 2021.04.18
https://www.youtube.com/watch?v=cZUPp1abWF0

・「HIAN」関連のニュース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000074997.html

●取材協力
石井一弘氏(LDH JAPAN戦略企画ルーム)
(※)この連載をまとめた書籍が小社から刊行予定です。詳細が決まりましたら改めてお知らせいたします。ご期待ください!


■小林直己
千葉県出身。幼少の頃より音楽に触れ、17歳からダンスをはじめる。
現在では、EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSの2つのグループを兼任しながら、表現の幅を広げ、Netflixオリジナル映画『アースクエイクバード』に出演するなど、役者としても活動している。

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