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イップスの正体|#6 北方悠誠(プロ野球選手)

クリーム色を基調としたスカイブルーとオレンジのユニフォームは、どこかニューヨーク・メッツを想起させた。2011年夏、唐津商業は、27年ぶりに甲子園に戻って来た。その原動力となったのが、当時、「150キロ右腕」と騒がれていた剛腕・北方悠誠である。

甲子園では2回戦で作新学院に2-3と惜敗するも、しなやかで、力強いフォームから投じられるストレートは鮮烈な印象を残した。

北方は、その年の秋のドラフト会議で、横浜ベイスターズ(のちのDeNA)から1巡目指名を受ける。しかし、3年目の春、極度のコントロール難に苦しみ、その年限りで契約を打ち切られた。高卒の1位指名選手に対し、非情とも言える異例の措置だった。ただし、北方の制球難は周囲の目からはそれくらい救い難く映ったことも確かだった。

以降、北方は「投げることから逃げない」と自分に言い聞かせながら、6つの球団を渡り歩く。そして、2019年には自己最速記録を大幅に更新する161キロをマーク。メジャースカウトの目に留まり、ドジャースとマイナー契約を結ぶまでにいたった。

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北方悠誠

――経歴を見ただけでも、壮絶です。14年にDeNAを退団した後は、ソフトバンクの育成選手を経て、独立リーグの群馬、愛媛、信濃、栃木とほぼ1年ごとに球団を移り、2019年にはアメリカに渡りました。その過程で、いったい何度、野球を辞めようと思ったのだろうと想像してしまいました。

北方 正直、辞めたいと思ったことはいっぱいあるんですけど、本気で辞めようと思ったのは、ホークスを退団したときでしたね。フォームがガシャガシャで、どうにもならなかったので。ただ、指先の感覚はあったんです。だから、フォームさえはまれば、また投げれるというのがあった。その感覚がなかったら、ソフトバンクを退団するときに野球を辞めていたと思います。


――北方さんがイップスだったかどうかはひとまず置いておいて、イップスになると、指先の感覚がなくなるという人もいますもんね。指先の感覚はあったわけですね。

北方 はい。こっち(指先の感覚)は大丈夫だから、あとはフォームだと。フォームを何とかできたら……と思っていました。

――そもそもの話をうかがいたいのですが、制球に苦しみ始めたのは、プロ3年目の春のキャンプのときだったんですよね。

北方 春キャンプ明けですね。3月に入ってからです。キャンプは一軍だったんですけど、キャンプが終わるタイミングで二軍に落とされて。最初の2年は、細かいコントロールはなかったんですけど、かなり力強い球を投げられていたんです。高校時代もそんな感じで、フォアボールは出すけど点は取られなかった。ただ、プロだと、さすがにそうはいきません。3年目はそろそろ一軍で結果を出したいと、ちょっと焦り始めたのだと思います。3月にファームへ行って、そこから制球を意識するあまり、フォームも、心も、どんどんちっちゃくなってしまった。そうする内に、だんだん投げ方がわからなくなってしまったんです。

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――イップスの場合、あの試合の、あの一球をきっかけに……という話をよく聞きますが、北方さんの場合は、あくまで「だんだん」とだったわけですね。

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