見出し画像

「愛子天皇を認めるべきか」ご都合主義で皇位継承 順位を変える不遜さ

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは【愛子天皇を認めるべきか】です。
★対論を読む

文・阿比留瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)

 時に無知は、社会に致命的な破壊をもたらす。安定的な皇位継承のため、女性・女系天皇を認めて天皇、皇后両陛下の長女、愛子さまに天皇になってもらおうという素朴な世論もそうである。

 だが、それは日本統一の大きな基盤となってきた皇室の「万世一系」に対する誤解か無関心、場合によっては悪意に基づく。皇室の万世一系とは、決して「直系」ではなく「男系(父系)」のことだからである。

 皇室とは、直系だけで構成される現在の一般的な家族のことではなく、もっと幅広い方々で構成されるものであり、そうしてこそ安定的継承が望める。

 今上陛下に至るまで126代にわたって皇位は父方の系統に天皇を持つ男系で継承されてきた。その中には「中継ぎ」として10代8人の女性天皇(男系)もいたが、その方々はいずれも在位中は配偶者を持たず、未婚か寡婦だった。

 仮に女性天皇が配偶者を得て子供を産んだとしても、そのお子さまは女系となり、皇位を継ぐことはできない。これが皇室がずっと守ってきた伝統である。もし愛子さまが天皇となり、そのお子さまを天皇の地位に就けるとなれば、それは「別王朝」の成立にほかならない。

 実際、126代の天皇の系譜をみても、7代以上にわたって直系で継承されている事例は、わずか3例しかない。傍系継承の方が普通であり、武烈天皇と次の継体天皇は10親等も離れている。武烈天皇には女兄弟がいたが、それでも男系の適任者を探して皇位に就けたのである。

 そうまでして守り抜いてきた皇室の大原則を、愛子さまが直系だからといって破っていい道理がない。歴史の重みと皇室の大伝統を、現在の価値観で簡単に切り捨てて、果たしていいのだろうか。

 さらに理解し難いことがある。現在の皇室には秋篠宮さまと、その長男である悠仁さまという正統な皇位継承者がいるのに、ご都合主義で皇位継承順位を変えようとすることの不遜さと危険に、どうして考えが及ばないのか。

 これは事実上、秋篠宮さまと悠仁さまから継承権を簒奪し、廃嫡するということにつながる。愛子さまを優先的に天皇とすれば、当然、そのお子さまを次の天皇にという声が国内外から起きよう。

 そうなると、ご本人たちはあずかり知らないところで、愛子さまと悠仁さまの系統のどちらが正統かをめぐって論争が巻き起こり、国論を2分する「南北朝」問題が起きかねない。

男女差別という的外れな指摘

 平成18年2月に宮内庁が秋篠宮妃紀子さまのご懐妊の兆候を発表した際には、女性・女系天皇を容認する皇室典範改正に熱心だった当時の小泉純一郎首相と、慎重派の安倍晋三官房長官との間でこんな議論があった。

 安倍長官「誠におめでたいことですが、これで皇室典範改正はよくよく慎重にしなければならなくなりました」

 小泉首相「なぜだ」

 安倍長官「生まれてくるお子さまが男子でしたら、皇室典範改正はこのお子さまから皇位継承権を奪ってしまうことになります。(皇子同士が皇位継承をめぐり争った)壬申の乱になりかねません」

 小泉首相「……そうか」

 そして悠仁さま誕生の結果、皇室典範改正は立ち消えになった経緯がある。愛子さまがかわいらしいから次の天皇に、などという安っぽい感傷は排さなければならない。第一、上皇さまのほか皇族方の周りにも「女系天皇をつくろうという気は全くない」(政府高官)とされる。

 また、愛子さまを天皇に、それ以外の女性皇族を女性宮家の当主にしたがっている人々は、その方々にどんな人生を送ってほしいのかが分からない。

 この視点に関しては、ノンフィクション作家の工藤美代子氏が月刊「文藝春秋」(平成18年1月号)に寄せた論文「『女性天皇』愛子様の苦難 史上初『天皇陛下のお婿さん』になり手はいるのか」が的を射ている。工藤氏は問う。

「いったい誰が、天皇の夫になろうと考えるだろうか」

 現行法制上、結婚すれば皇籍を離れる立場にある秋篠宮家の長女、眞子さまであっても、婚約内定後に一連の騒動が起きている。将来の女性天皇だったら、もっと詮索され、報道も過熱するだろう。

 仮に配偶者候補が現れたとしても、その男性が皇室伝統の破壊者だと非難を浴びることは想像に難くない。女性皇族の結婚ですら容易でないのに、である。

この続きをみるには

この続き: 849文字 / 画像1枚
この記事が含まれているマガジンを購入する
文藝春秋digitalが送る「2020年の論点100」は、幅広い教養が手軽に身につくマガジンです。今最も人気がある100人の論者が100個の論点を明快に解き明かします。激動の2020年を生きるあなたの強い味方になる1冊です。

日本を代表する知識人たちが2020年に日本が直面する100の課題を徹底的に論じた教養マガジン。小論文対策をしたい高校生から、レポートに困っ…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
2
シェアしたくなる教養メディア。100年近くの歴史がある総合月刊誌「文藝春秋」が、あなたの人生を豊かに彩るコンテンツを毎日お届けします。

こちらでもピックアップされています

2020年の論点100
2020年の論点100
  • 101本
  • ¥1,400

日本を代表する知識人たちが2020年に日本が直面する100の課題を徹底的に論じた教養マガジン。小論文対策をしたい高校生から、レポートに困っている大学生、教養を身につけたいビジネスマンまで幅広くサポート。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。