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「コスパ」マインドがコロナ禍のデジタル敗戦を招いた|クロサカタツヤ氏インタビュー

2020年に新型コロナの感染が拡大して以降、「日本のITは遅れている」「デジタル敗戦」という言葉が世間で飛び交うようになりました。

政府が経済対策として1人10万円を配った「特別定額給付金」では、オンラインで申請すると、かえって給付が後回しになったケースや、書面での申請を求める自治体がいくつもあったと報じられています。

コロナ患者の情報集約も、オンラインではなく、医師が手書きのFAXで保健所へ送り、それを保健所では手作業で入力していたというのですから、これには驚きをとおりこして、あきれた方もいるでしょう。2021年に始まったワクチン予約システムでも、問題が頻発しています。

こうした現実を目の当たりにして、みんなが、この国のITシステムのレベルを嘆くのも無理はありません。

私も以前から、日本のIT化の遅れを指摘してきました。

ただ一方で、通信・放送業界の経営コンサルタントとして、最新のテクノロジーを取り入れた事業開発の支援に取り組んでいる私には、違う風景も見えています。

クロサカタツヤ氏 

■クロサカタツヤ
1975年生まれ。小学生のときからパソコン通信に触れ、進学した慶應義塾大学総合政策学部で、日本にインターネットを紹介した「インターネット・サムライ」と言われる村井純氏の薫陶を受ける。同大学院政策・メディア研究科修了、三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルタントを務める。その後、2008年に株式会社企(くわだて)を設立。2016年より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授を兼務している。

日本のデジタル環境は世界トップクラス

意外に思われるかもしれませんが、日本は世界トップクラスのブロードバンド大国なのです。これは、駅前の露天でもADSLが売られていたような「ブーム」があったことと、一時は世界最先端のデジタル・サービスだったiモードの遺産です。
いたるところで超高速回線が利用できて、ネットフリックスやYouTubeなどの動画をストレスなく楽しめる。

私は国の通信政策、IT政策にも携わっていますので、IT先進国との交流も少なくないのですが、日本ほど環境の良い国は、世界のなかでもそうそうないと感じています。
通信料が高いという声もありますが、月に1000円から2000円程度の違いにすぎません。事業者の努力のおかげで、少なくとも今日現在は「安くていいもの」が手に入ります。

ですから問題は、世界一のデジタル環境にいながら、多くの人が「日本のデジタル化は遅れている」と感じていることです。

このギャップがどこから生じているのか。その点を考察することなく、日本のデジタル化を論じることはできません。

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ネットは「おもちゃ」でしかなかった

ユーザーの意識と、デジタル環境のギャップを分析する際、前提となるのが、日本におけるネット(IT、デジタル技術)の位置づけです。

21世紀に入ってからの20年、日本ではネットを「おもちゃ」、つまりゲームや動画、コミュニケーション・ツールなど、おもに娯楽のために利用してきました。

もちろん、娯楽やコミュニケーションのためにネットを利用することが、問題なのではありません。
問題なのは、行政、企業が、生活の中へネットを組み込んだり、デジタル化を進めてこなかったことです。そのしっぺ返しを、コロナ禍でくらっているのです。
さらにいえば問題は、その娯楽・コミュニケーション分野でも、YouTubeやLINE、ネットフリックスなど、外資系が市場を席捲していることですが。

話を、生活とネットの関係に戻しましょう。
ネットが生活に組み込まれた例の代表格が、Amazonをはじめとするeコマースです。
Amazonは日本でもすっかりおなじみになっていますが、事業規模、売上の伸び率は、アメリカをはじめ同社の他の国の事業と比べて、ずいぶんと見劣りします。

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