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【連載】EXILEになれなくて #7|小林直己

第二幕 EXILEという夢の作り方

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一場 EXILEの人気の秘密、僕の体、脊柱管狭窄症②

「脊柱管狭窄症による、神経の圧迫が見られます。手先や指に痺れはありません か?」。大学病院で検査し直した僕に、MRIの結果を見ながら医師はそう言った。「手や指に痺れ……」。実は、誰にも言えていなかったのだが、その頃、左手の人差し指と中指の感覚が、少し鈍くなっていることに気づいていた。また、左腿の表面の感覚も、薄いゴムを一枚噛ませたかのような鈍さがあった。「……はい、少し感じています」。僕は、初めて口に出した。

「そうでしょう。頚椎部に、スネーク・アイと呼ばれる現象の、神経の損傷が見られます。小林さんのこの脊柱管の細さですと、何度も首を回したり後ろに倒すことによって、ついたものと思われます」。ものすごく、心当たりがあった。「この部分の細さは、おそらく先天的なものです。現在はあまり支障は感じないかもしれませんが、小林さんの職業のことを考えると、このまま放置しておいたら損傷は悪化していく可能性があります。この先を考えると、手術をし、狭くなった管を開放することで、追加の損傷を防ぐことが見込めます」「首の手術ですか?」「そうです」。医師の突然の提案に、すぐに返答が出せずに言葉を飲み込んだ。「一度、ゆっくり考えさせてください」。 首を手術することになるかもしれない。現在行っているツアーはあと数公演で終了するが、来年にもツアーは控えている。また、首の神経の管を手術で広げれば、最悪の場合、その神経自体を傷つけることもある。全ての神経が集中して通っているこの場所を傷つけたら、半身不随になる可能性だってある。もしかしたら、踊れなくなるかもしれない。いや、歩けなくなるのかも。怖い。これまで当たり前だったことが、当たり前じゃなくなることが、こんなにも怖いことだなんて……。 しかし同時に、この先10年踊り続けるために、不安を解消しておきたい気持ちもあった。悩みに悩み、一晩を明かしたが、答えは出ない。それでも、せっかく EXILEになれたこの人生を、悔いなく生きたかった。 「直己がそうしたいのなら、全力で応援する。困ったことがあったら、なんでも言ってほしい」。 HIRO、そして、メンバーに首の手術について相談すると、全員が温かい返事をくれた。特に、印象に残ったのが、MATSUの言葉だ。「直己、怖いよな。わかるよ」。”怖さ”にまず共感してくれたのだ。 

 手術をする、と決めてからは、もう迷いはなかった。古くから面倒を見てくれている スタッフから紹介してもらった、信頼する医師とともに治療プランを練り上げ、手術する日を設定する。両親にも足を運んでもらい、同意書に署名し、その場で改めて想いを伝えた。 僕のことを理解し、応援を続けてくれる二人には感謝しかない。そして、——無事に手術は終了した。 手術の数日後、三代目 J SOUL BROTHERSのメンバーが皆、遊びに来てくれた。実はその日、メンバーはミュージックステーションへの生出演を控えていた。 生放送で繰り広げられるパフォーマンスに、僕自身も昔から食い入るように観ていた番組だ。 その前に 皆で顔を見せに来てくれたのだった。「直己さんの分まで、パフォーマンスしてきますよ!」「うん、病室のテレビで絶対に観るから」。そんなやりとりをして別れた。 

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