見出し画像

我修院達也さんインタビュー|金曜ロードショー『ハウルの動く城』放送

宮崎駿監督によるファンタジー『ハウルの動く城』(2004年)が4月2日に「金曜ロードショー」で放送される。同作で“火の悪魔”カルシファー役を演じたのは、我修院達也さん(70)。『千と千尋の神隠し』(2001年)から3年、「ごめんなさいね、また人間の役じゃなくて」と監督本人からオファーされたという。青蛙とはひと味違う“悪カワイイ”声と、“ベーコンエッグ”などの数々の名シーンが生まれるまでを、我修院さんが身振り手振りを交えながら語ってくれた。

◆ ◆ ◆

――『千と千尋の神隠し』(01)で〈青蛙〉を演じてから3年後に、『ハウルの動く城』で火の悪魔〈カルシファー〉を演じられます。2度目の宮崎監督作品、2度目のジブリ作品でしたね。

我修院 そうですね。出演させていただくまでの経緯は『千と千尋』と似た感じ。〈カルシファー〉役でオファーをいただいて、オーディションもしませんでした。最初から決まっていましたね。ジブリに伺って宮崎監督に「また、よろしくお願いします」とご挨拶をしたら、「ごめんなさいね、また人間の役じゃなくて」と仰って(笑)。

〈青蛙〉の時は名前に蛙が入っているから、カエルなんだなってわかるけど、さすがに〈カルシファー〉は名前だけじゃどんなキャラかまったくわからない。「〈カルシファー〉ってなんですか?」「火の悪魔なんです」「火の悪魔? 悪魔ですか」「悪魔でも、かわいくやってね。いいですか、これは難しいですよ。〈青蛙〉と一緒じゃ駄目なんですよ。しかも、あなたってわからないと駄目だから」って宮崎監督からお話がありました。

――なんだか難しそうですね。

我修院 「子どもが喜ぶようにやってください」「悪魔だけど、子どもが怖がったり、逃げ出したくなったり、泣き出すようなのは駄目ですよ」「だけど、怒ったら怖いところがあるということをちょっと見せてほしい」とも言われましてね。さらに「あなたはいろんな声が出せるけれども、ぜんぜん違う声を出しちゃうとあなただってわからなくなっちゃうから駄目」と続いて、「〈カルシファー〉って、本当は主役なんですよ」「原作の小説は『魔法使いハウルと火の悪魔』というタイトルで、〈カルシファー〉も主役なんですよ」って教えられたんです。火がなければ城が動かないんだから、たしかにそうですよね。で、そのうえで「あなたに任せます」と(笑)。

――やっぱり難しいですね。

我修院 お話を伺って、「ちょっとキーを低くしよう」と考えたんです。〈カルシファー〉の「おいら」って、低く出してるんですよ。「おいらは火の悪魔」まで低く話して、「カルシファーっていうんだ」でちょっと高くなる。〈カルシファー〉のモノマネをする時に〈青蛙〉と同じ声で「おいら」とやっている人がいますけど、本当はまったく違うんだよね。

_9N28205 リサイズ

我修院達也さん

――そういった声の設定を決めるのに、どれくらいの時間を掛けたのですか?

我修院 5分くらいです。いろいろと要望を聞かせてもらったら、監督は「じゃあ、もういいですか。今度はちゃんとサブの中に入りますから」って。『千と千尋の神隠し』の頃は、録音スタジオにサブ(調整室)を仕切る壁がなかったけど『ハウル』の時には仕切られていた。これなら、『千と千尋』の時みたいに、監督が僕の声を聞いて吹き出しても大丈夫だって思ったね(笑)。

――初めて〈カルシファー〉の映像をご覧になった時、どんな風に思いましたか?

我修院 事前に、“火の悪魔”っていうくらいだから、メラメラ燃えて〈口裂け女〉みたいに口角が異常に上がっているのかなと想像してたんです。でも、映像を観たらそうじゃなくて、かわいいんですよね。やっぱり、「この声で正しかった。合っているな」と思いました。もうちょっと高い声でも大丈夫だったのかな……という気もしたけど。そこが難しいところで、少しテンションが上がると〈青蛙〉っぽくなっちゃってはいるんですよ。「消えちゃうよ~。ウッ」なんてセリフは〈青蛙〉の声。その前の「おいら」は低く出しているからといって、「おいら消えちゃうよ」を低いままで通したら駄目ですから。「消えちゃうよ~」は高くしないと。

 しかも、子どもたちが喜ぶようにとも言われてるじゃないですか。だから、「ア、ア、ウェ」とかちょっとおまけをつける。絵が終わって〈カルシファー〉は消えてるのに「ウェ」とか「ア~」とか、余韻を残しています。監督がなにも仰らなかったので、オッケーなんだなと捉えました(笑)。

――では、〈青蛙〉の時のように“人間の声”になってしまっていたこともなく。

我修院 録るたびに「大丈夫ですか?」と確認したけど「オッケー、オッケー」って。あんまりNGはなかったし、なによりも監督から「いま、人間になっちゃってましたよ」と言われなかったのでホッとした。

――〈青蛙〉と打って変わって、セリフの数もとても多いですよね。〈ハウル〉役の木村拓哉さん、〈ソフィー〉役の倍賞千恵子さんとの掛け合いもあるわけですが、収録はご一緒でしたか?

我修院 一緒に録ってはいないです。パーツ録りして、後でミックスして整える。収録のはじめのほうは、木村さんや倍賞さんのパートは無音のことが多かったですかね。

――おふたりとの掛け合いで苦労したシーンはどこでしょう?

我修院 〈ソフィー〉に褒められて、〈カルシファー〉が照れるところかな。こっちも照れていないと、そういうふうに聞こえないわけだよね。笑うにしても普通に「エヘヘッ、ヘッ、ヘッ」と笑うのと、「ンフッ、グフッ、ウフッ」と恥じらいを持った笑いは、違って聞こえてくるでしょう。首をかしげて笑うだけでも違うんですよ。なので、うんと照れて、「ンフフッ」と笑ったらオッケーが出ました。

――暖炉の前で〈ハウル〉と〈カルシファー〉が語らうシーンがありますよね。物語の本質が伝わってくるような静かで内省的な会話が、とても印象に残っているのですが。

我修院 ああいったシーンは、台本を最初から最後まで読んで、すべてを頭の中に入れておかないと、気持ちが出てこない。役者と一緒。だって、台本を読みながらやっていたら口なんて合わせられない。「声優さんはいいよね。台本を覚えなくてもいいから」なんて仰る方がいるけど、僕からしたらとんでもない間違いですよ。

 ト書きはもちろん、キャラクターの動きもすべて把握していないと。「なにすんだよ!」という台詞なんかも、ちゃんと体を揺らして手を払いのけるように動かないとリアルに聞こえない。

――では、『ハウル』の時も台本には書き込みをされたりは?

我修院 書いてましたね。なにか引っ掛かる場合は、休憩に入ったら監督さんに「次のシーンですけども、こちらはこのような感じでやったらよろしいですかね」とお伺いを立てておく。それは子役だった頃にマネージャーだったおふくろに言われて守ってきたこと。黙って勝手にやって注意されるより、事前にお伺いを立てておいたほうが間違いないですから。どんな監督だって、悪い気はしないはずですよ。作品のことをきちんと考えているわけだから。

――〈カルシファー〉が自分の炎で卵とベーコンを焼きつつ、それらを食べてしまうシーンは咀嚼する音にものすごくシズル感があって、好きなシーンにあげる人も多いと思います。

我修院 “本当に食べてる感”が欲しいと言われたんで、ちょっと口に指を入れて「アン、アン、ウン、ウン、アン、アン」っていうふうにやりましたね。卵を割る音はリアルだけど、あれは擬音の方が違う素材を使って「バリバリ」って音を出してやっている。本物の卵を使うと、かえって違和感が出ちゃうそうなんです。その擬音と僕の声が一緒になると、ああいった臨場感に溢れた感じになる。

――〈カルシファー〉のセリフで、思い入れの深いものはありますか?

我修院 火が消えそうになって、懸命に消えたくない思いを伝えるところかな。「ソフィー、おーい、助けてくれよ。消えちゃうよ。ングッ、ワァ~」なんて叫んでいる場面。〈カルシファー〉の「消えてしまう」は「死んでしまう」ことですから、死ぬ思いになって絶叫しなきゃいけない。やっぱり、叫ぶのは喉が痛いし、苦しくなるんですよ。

 一発でオーケーが出たけど、絶叫している間の何秒かは声帯振動数が凄まじいレベルで上がってしまう。音色を変えるということは、声帯振動数を変えていることなんです。ゆえに、相当なレベルの負荷が喉に掛かる。お医者さんに言わせると、これを続けるとポリープができてしまうそうです。

――では、収録で喉はボロボロになっていたと。

我修院 痛かった。キャラ声を出す時って、喉が痛いんですよ。モノマネをやってた頃は、郷ひろみの声で歌うことで喉が痛くなっていました。当然だけど、本人は痛くないんですよね。その代わり、本人はその声しか出せない。僕の“地声”はこれといって特徴もない声だからこそ、細かくいろんな声が出せるんです。色も白だといろんな色に染められるのと一緒です。これが例えば森進一さんみたいな声だと、色が濃すぎてその声しか出せない。

――ちなみに、いまインタビューでお話しくださっている声が地声ですか?

我修院 そうです。これが僕の地声。特徴がないでしょ? だから、ラジオに出て喋っても、聞いてくださっている方々に我修院達也だって気付いてもらえない(笑)。ファンの方に「今度、いついつの日にラジオに出るんで聞いてくださいね」なんて言っても、後で「聞いてたんですけど……どこに出ていたんですか?」と言われちゃう。ずっとキャラ声で喋っているわけにもいかないし、おまけにラジオは顔が出ないから。いろいろ考えて、最初だけ「我修院で~す! ウェ」とキャラ声で自己紹介した後、「これが本当の声です」と地声で話すようにしているんだけど、そこを聞いてない人がいるんだね(笑)。で、結局は「これ、誰?」「これ、我修院?」ってなっちゃうんですよ。

_9N28187  リサイズ

続きをみるには

残り 29字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…

「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了しました。今後は「文藝春秋 電子版」https://bunshun.jp/bungeishunju をご利用ください