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阿川佐和子×有働由美子「週刊文春から移籍を狙ってたのに」

news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、作家の阿川佐和子さんです。

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阿川さん(左)と有働さん(右)

ゲストが手強いぞと思ったら――「聞く力」に学ぶ㊙テクニック

阿川 有働さん、この連載は月1回ですよね?

有働 そうです。

阿川 私、狙ってたんです。

有働 えっ!?

阿川 週刊文春の連載「阿川佐和子のこの人に会いたい」が大変だから、月刊くらいのペースがいいなと思って。担当者に相談したら「阿川さん、残念でした。有働さんの連載が始まりましたから」って。

有働 ま、待ってください、月刊の担当者が身を乗り出してしまう。でも週1回だと大変でしょうね。

阿川 有働さんは月1回と言っても、日々のテレビの生放送番組も持っているから大変でしょう?

有働 これまた質問……昨日、元NHKアナウンサーの村上信夫さんと話していて「明日、阿川さんにインタビューさせてもらうんです」と伝えたら、「阿川さんは、インタビューされているようで聞いてくるから気をつけて」と言われたんです。まさにその展開になっております。

阿川 私は大した話できないからね。

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理想は城山三郎さん

有働 『聞く力』(文春新書)が累計176万部突破のベストセラー作家・阿川さんに聞く、だなんて、こんな血も涙もないキャスティングをする文藝春秋は本当にひどい(笑)。「阿川佐和子のこの人に会いたい」は、今やインタビューの教科書のような存在ですね。

阿川 やめてくださいよ。まあ、1993年から始まって、今年で29年かな。それでも毎回、ドキドキ。「思った以上に盛り上がった」とか「他のどこにも出ていない話が取れた」という時もないわけではないけれど、上手に聞き出せないまま終わる時もあるし。

有働 えっ、意外です。私、阿川さんのインタビューはずるいと思っていました。

阿川 なんで?

有働 阿川さんや黒柳徹子さんくらいの存在になると、相手が覚悟を決めて来る感じがして。

阿川 そんなことない。始まる前から「今日は絶対うまくいかない」と緊張することもあるし。でも「この人は気難しそうだし、準備も悪くてダメだダメだ」と騒いでいると、担当者が「阿川さんがダメだダメだと言う時は大抵成功しますよ」と言ってくれる。それもそうだよね、と思って油断すると失敗するんですけどね(笑)。

有働 裏の裏をいって(笑)。うまくいかないと思った時にうまくいくというのはなぜでしょう?

阿川 私の定義では、まず「この人なら大丈夫だろう」という時には油断が生じやすい。その場は楽しいんだけど、記事になった時に読者が求めている方向に真摯に向き合えていないということがありますね。あと、昔から憧れている人や大好きな人だと、思いが強すぎて冷静かつ客観的に話を運べなくなることもあるから、そういう人にはあまり会いたくないとよく言っています。

有働 大好きだけど仕事では会いたくないということですよね。

阿川 そうそう。むしろ「えー、なんでこの人に会うの?」なんて思う時のほうが落ち着いて、世間の関心と自分の聞く方向が一致することがありますね。「よくそんなこと聞けるね」と言われる時もあるけど、無理やり引き出した意識はまったくなくて、たまたまそういう流れと空気になったというか。私はゲストに嫌われたり怒られたりするのはイヤだから、「楽しかったな」と思って帰っていただけるのが一番うれしい。

有働 傍から見たら「阿川さん、相手の急所に飛び込んでいったな」と思う質問でも、相手からしたら気持ちいい流れにあるから楽しめるのかもしれませんね。

阿川 昔、作家の城山三郎さんに初めてお会いした時、あちらがゲストなのに気がついたら私のほうが喋りまくっていたことがあるんです。別に城山さんが鋭い質問をなさったわけじゃなく「へぇ、お宅はおかしいね。それで?」という感じ。私の下らない話をこんなに温かく受け入れてくださるんだと思った途端、あれもこれも聞いてほしくなっちゃった。そういう聞き手になりたいという気持ちはいまだにあります。

有働 鋭い質問をしなくとも自然と核心に迫っているような。

阿川 聞き手が下心を持って「アレとコレを掴んで帰ってやる」という意気込みがあると、しゃべり手はすぐ察知しますからね。「次はどこから矢を飛ばしてくるかな」って。

有働 ヤバい……。「アレとコレは持って帰ろう」と思って聞いていることが多いな。言質を取ろうとしちゃう。すごく勉強になりました。

阿川 やめてくださいよ(笑)。聞き手も生身の人間だから、空気の作り方とか攻撃の仕方って十人十色だからね。私は『聞く力』なんていう本を出しましたけど、ああすればうまく聞けるという型があるようなものではないと思っています。

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城山三郎

岸田首相の「聞く力」

有働 その『聞く力』は、岸田首相効果で増刷されたんですよね。

阿川 はい。岸田さんにお礼のインタビューもしました(本誌12月号「岸田総理に『聞く力』を聞く」)。「もしかして私の『聞く力』を読んで下さったんですか?」という思いで臨んだんだけど、「阿川さんの本を読んで参考にしたわけじゃない」と柔らかく返されました(笑)。

有働 そういうやりとりも含めて大変面白く拝読しました。阿川さんから見て、岸田さんの聞く力はいかがでしたか?

阿川 城山さんの例がまさにそうですけど、私は「聞く力」とは「この聞き手に話したいな」という気にさせる力だと思っています。話していて楽しいと、その日のテーマ以外の余計な、でも実は大切な話が出てくることがある。そういう視点で言うと、岸田さんには聞いてくださりそうな雰囲気はありますよね。

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本誌12月号で岸田首相と対談

有働 それこそ柔らかく。

阿川 「ふーん、ふーん」ってね。私は政治家の力量についてはよくわかりませんけど、たとえば安倍さんは、あまり人の話を聞いてくれない感じがするの。

有働 ふふふふ。

阿川 聞いてはいらっしゃるだろうけど、けっこうせっかちな感じで「はいはいはい」と流されたら、「あまり聞きたくないのかな、やめておこうかな」と萎縮しちゃうかも。

有働 総裁選の時、候補者の方々をニュース番組のスタジオにお招きしたんです。岸田さんはこちらの質問を最後まで聞いて、一応はぐらかさずに答えてくれて「これが聞く力か」と感じました。河野さんは「そういう質問にはマルかバツかでなんて答えられません」とシャットアウト。それ以前だと、菅さんや安倍さんは予め答えを用意されているので、質問の3分の1くらいのところで食い気味に答える態勢でいらっしゃる。そういう方々に慣れていたので、岸田さんの姿勢は新鮮でした。

阿川 政治家って立場上守秘しなければならないことがたくさんあるのか、防御態勢の人が多いですよね。私の出ている『ビートたけしのTVタックル』でも、与党は守りに入るから口が重くて、野党がツッコむ傾向がある。でも、自民党が野党になり当時の民主党が与党になった時、今まで何でもしゃべっていた人が何もしゃべらなくなり、自民党が急にざっくばらんになったの。

有働 座る席が入れ替わったら、キャラまで入れ替わっちゃった。

阿川 そう、面白いくらい。でもタックルに限らず、今回のゲストは手ごわいぞと思ったら、私、いつもその人の小学生時代を想像するようにしているんです。

有働 どういうことですか!?

阿川 「クラスにこういう子いたな」という目で見ると、ちょっと気が楽になる。「この人は頭が良くてリーダー格だっただろうな」とか、「特別な才能はあるけど友達と話すのは下手だったのかな」とかね。現在のお立場のままで見ていると、恐れ多くて話しにくいときとかね。

有働 たしかに相手の立場に合わせるとこちらが硬くなってしまって、話の糸口を見失っているうちに時間切れになることがあります。阿川さんのテクニック、私もこれから使わせていただきます。

お見合い相手が同じ!?

有働 政治家といえば、阿川さんに伺いたかったことがあるんです。かつてお見合いを50回ほどされたお相手の中に国会議員がいて『TVタックル』にいらっしゃったこともあるそうで。

阿川 そういうところのリサーチが鋭いですね(笑)。

有働 実は、不肖私も、政治家の卵みたいな方と大昔にお見合いをしたことがあるんです。

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