
数字の科学 20世紀の天然痘の死者数|佐藤健太郎
サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
20世紀の天然痘の死者数=3億人
おそらく今から4000年ほど前のエチオピア付近で、一人の不運な人物がネズミからウイルスをうつされた。彼は全身に膿疱を発して異様な姿と化し、彼を看病した人々にも次々に同じ症状が襲いかかった。ペストと並び、史上最も恐れられた感染症・天然痘の発生は、このようなものであったと考えられている。
ウイルスは少しずつ人体への適応力を高め、全世界に広がっていった。日本では天平年間に大流行が発生、政権の中枢にあった藤原四兄弟をはじめ、当時の国内総人口の3割前後が亡くなったと推定されている。16世紀には、ヨーロッパから新大陸にウイルスが持ち込まれ、インカ帝国の人口のなんと6割から9割がこの感染症に斃れた。北米では、英国軍が天然痘ウイルスのついた毛布を先住民に配布し、大きな被害を与えている。新大陸を征服したのは、西洋人ではなくウイルスであったのだ。
天然痘の感染力は凄まじく、隔離病棟の患者がこっそり窓を開けて煙草を吸っただけで、2階離れたところにいた17名が感染したという記録さえある。種痘法の開発後も、天然痘は変わらず猛威を振るい、20世紀だけで3億人の命を奪ったと推定されている。
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、一流作家の連載小説、心揺さぶるノンフィクション……月額900円でビジネスにも役立つ幅広い「教養」が身につきます。
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。